「遠い隔たりと信じられない近さ」-23
『なんだか可哀想だね』
『あの時は、先生が怖くて堪らなかった』
『違うよ、先生が可哀想なんだ』
『えっ?それ、どういう意味』
『先生は、アイちゃんの夢のお手伝いをしてくれてたんでしょ?アイちゃんが高校に行けるよう、厳しくしたんじゃないかな』
『それはそうだけど』
『ぼくお母さんに言われたんだ。痛い注射されたり、病室に閉じ込めるのは、早く元気になってもらいたいからだって。
だからアイちゃんも一緒だと思う。絶対そうだよ』
『でも、あんなに言わなくても』
『怒られるのもイヤだけど、怒るのはもっとイヤだよ。きっと』
10歳の男の子の意見に、アイコはうしろめたい気持ちになった。
翌日、夕方。
放課後、アイコは職員室に安西を訪ねた。
「ど、どうしたんだ?」
驚く安西。自分の生徒が、思いつめた顔して立っていれば無理もない。
「あの…せ、先生にお話しが」
「何だ?話って」
促されてるのに、アイコは時折、視線をあちこちに送って話そうとしない。
どうやら、周りの存在が気になって仕方がないようだ。
「じゃあ、場所を移そうか」
察した安西はアイコを連れ出した。そして、進路指導室に場所を設けてやった。
「さあ、ここなら邪魔は入らない」
対面に座らされるシチュエーション。久しぶりでも、やっぱり息が苦しくなる。
「何か、話しがあるんだろ?」
なかなか踏み出せないアイコ。するとその時、
──怒る方はもっと苦しいよ。きっと。
晶の書き込みが頭に浮かんだ。
「せ、先生…すいませんでした」
アイコは席を立ち、安西に対して頭を深く下げた。それを見た安西は、目を丸くする。
「いったい、どうしたんだ?」
「自分が勉強出来ないのを…先生のせいにしてました。ごめんなさい」
ようやく呼ばれた意味が解り、安西はホッとした。