「遠い隔たりと信じられない近さ」-22
『わかんない。頑張って勉強してるけど』
『大丈夫だよ。でも、ぼくも学校に行って勉強をしたいなあ』
『行けるわよ。アキくん、これだけ手紙が書けるんだもん。すぐに良くなって通えるわ』
『本当に?』
『本当よ。それよりさ、アキくんは病室で何してるの?』
『特にないよ。朝は8時に起きて、先生の診察受けて、ご飯と矢野さんと話してる時以外は、ずっと本読んでる』
『矢野さんって?』
『看護婦さんだよ』
『本はお母さんが?』
『そうだよ。お母さんが図書館から借りてきてくれるんだ』
『そういえば、この間、お母さん来てたんでしょ?』
『お母さんは、3時間かけて会いに来てくれるんだ。
でも、長くいるとぼくに病気が染っちゃうから、30分しか会えないんだ』
『そっか。たった30分じゃ辛いよねえ』
『でも、まだいいよ。前は会えなかったから』
最初は、お互いの“現在”を語り合った。相手のことを知るうちに、時には共感し、時には哀れみを覚え、より近しい存在だと感じ入っていった。
しかし、存在を認め合うということは楽しいばかりとは限らない。それが友だちならなおさらだ。
それは、晶とアイコが手紙を交わしだして半月が過ぎた頃、お互いが“未来”のことを語り合っていた。
『アキくんの夢ってなあに?』
『病気が治って、外に出たい。それと学校に行きたい』
『そうだよね。それがアキくんにとって、1番の夢だよね』
『それから、お母さんのご飯食べたい』
健康な子供なら、当たり前にできること。それらが夢だと言った晶を、アイコは同情すると共に、自分は恵まれた存在なのだと感じた。
『じゃあ、アイちゃんの夢は?』
『今は、福祉の大学に行くために目標の高校に進学すること』
『ぼくなんかより、よっぽどすごいや』
『そんなことないよ。アキくんだって、夢を叶えるため治療頑張ってるじゃない』
『アイちゃんの受験勉強って、どんな調子なの?』
『最近は順調なんだけど、その前が全然だめだったから、まだ遅れてるわ』
『だめだったって、なんで?』
『アドバイスをくれる先生が厳しくてね。いつも怒られてるうちに、やる気が無くなって』
『でも、今は順調って?』
『だから先生に言ってやったの。もう、わたしを放っておいて下さいって。
それから1人でやるようになって、順調になったの』
アイコの中に、自分が受けた苦しさを知ってもらいたいという感情が生まれた。
しかし、晶の方は逆のことを考えていた。