投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

「遠い隔たりと信じられない近さ」
【ファンタジー 恋愛小説】

「遠い隔たりと信じられない近さ」の最初へ 「遠い隔たりと信じられない近さ」 18 「遠い隔たりと信じられない近さ」 20 「遠い隔たりと信じられない近さ」の最後へ

「遠い隔たりと信じられない近さ」-19

『アイコさん、手紙ありがとう。
 中学3年生。ぼくは小学校に行ってないから分かんないや。それと複雑な環境って何?
 ぼくは入院してるんだ。5才の時からだよ。今日はもうすぐお母さんが来てくれるんだ。
 それより、この手紙のシステムが分からないよ。
アイコさん、知ってる?』


 手紙を見つめる眼が柔らかい。文章という限られた情報の中で、アイコは何故か此処の子供逹とは違う朗らかさを感じていた。

 アイコは、すぐに返事を書いて本に収めてから、

(じゃあ、またね)

 本日、2度目の勉強に取りかかった。





「アキちゃん、元気だった?」
「うん」

 暖かな日光が南向きの窓から射し込む午後の病室で、晶と母親は1週間ぶりに言葉を交わした。

「この頃、鬱ぎがちだって聞いたけど、安心したわ」
「そんなことより、お母さん、大丈夫だったの?」

 晶は、母親のことの方が心配なのだ。

「ぼくのことで、苛められなかった?」

 そんな心遣いに、母親は優しく微笑む。

「大丈夫よ。アキちゃんは優しい子ね」
「そんなことより…」

 なおも食い下がろうとする晶を、母親は止めた。

「アキちゃんは、そんな心配しなくていいの。自分のことを考えなさい」

 柔らかな手が、晶のおでこを優しく撫でた。

 母親の話は嘘だった。
 前回の騒動における内容からすれば、父親や娘の不満の捌け口にされているのは、容易に想像できる。
 しかし彼女は、それを微塵も感じさせない。このところの晶の容態を考えれば、当然のことだった。

「それよりも…」

 母親は、撫でる手を止めて晶の顔を見た。

「何か、良いことがあったみたいね?」

 晶はドキリとした。

「どうして?」
「看護婦さんから鬱ぎがちって聞いてたけど、全くそんな感じじゃないから」

 わずかな、精神的変化も気づいてしまう炯眼は、母親の特権なのか。

 そんな力を目の当たりにしたというのに、晶は次の瞬間、笑いだした。

「良いことはあったよ」
「なあに?」
「教えな〜い」

 企みを持った顔。それを見た母親は、呆気にとられてしまった。


「遠い隔たりと信じられない近さ」の最初へ 「遠い隔たりと信じられない近さ」 18 「遠い隔たりと信じられない近さ」 20 「遠い隔たりと信じられない近さ」の最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前