「遠い隔たりと信じられない近さ」-18
「終わった〜!」
アイコは、片岡の部屋で安堵の声をひとつ挙げた。
「夜と違って時間あるから、結構はかどるなあ」
遅い朝食を食べた後は昼食を挟んで、ずっと勉強にかかりっぱなしだったのだ。
時刻は午後3時。あと1時間もすれば、子供逹が帰ってくる。
(今日は久しぶりに、遊んであげよっかな)
アイコは、さっそく片岡に訊いてみようと階下に降りて行った。
先ずは勉強道具を片づけようと、自分達の部屋に向かった瞬間、すっかり忘れていた事柄が頭に浮かんだ。
「いっけない!」
慌てて勉強道具を机の上に放り出すと、本の図書カード入れの中を確かめた。
(あった…)
明らかにアイコの物と違う手紙。中身を出して読んでみる。
『手紙ありがとう。ぼくより5才も年上ならアイコさんだね。
ぼくはずっと、診療所に住んでるんだ。アイコさんは何してるの?』
(診療所って?両親が医者なのかな)
アイコは、すぐに返事を宛てた。
『手紙ありがとう。診療所に住んでるって、入院してるの?それとも診療所がお家?
わたしは中学3年生で、ちょっと複雑な環境に住んでます。
また手紙下さい。』
「これで…よし、と」
返事を書き終えて部屋を出ると、玄関の扉ががらりと開いた。
「ただいま!」
子供逹が学校から帰って来たのだ。アイコはすぐに迎えに出た。
「お帰りなさい!」
「あっ!大っきいお姉ちゃん」
アイコの姿に、子供逹も嬉しそうだ。
「大っきいお姉ちゃん、後で遊んでよ」
「いいわよ」
「本当に!」
サプライズな出来事に、子供逹は声を弾ませる。
「お手伝いの時間までならね」
それからアイコは、子供逹の世話に家事の手伝いにと忙しく動き回った。
そして自分の時間を迎えて、再び机に向かった。
「また来てるかな」
晶からの手紙に、アイコは心躍らせる。