投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

「遠い隔たりと信じられない近さ」
【ファンタジー 恋愛小説】

「遠い隔たりと信じられない近さ」の最初へ 「遠い隔たりと信じられない近さ」 16 「遠い隔たりと信じられない近さ」 18 「遠い隔たりと信じられない近さ」の最後へ

「遠い隔たりと信じられない近さ」-17

「そして、これを…」

 手紙を再度、図書カード入れに収めると、本をいつもの場所でなく枕の下に敷いた。
 これで晶がベッドに横たわっている間は、手紙を入れ替えることは不可能だ。

「これでよし」

 晶は、朝食、回診と出入りする人に注意をはらった。
 だが、何事も起こらないまま時間は過ぎていく。

 残るは、あと2つ。

 そのうちのひとつが、回診を終えた1時間後に訪れた。矢野が病室に現れたのだ。
 晶は、頭で枕を強く押さえつけた。

「おはよう、晶くん!」
「おはようございます、矢野さん」

 挨拶を交わした矢野は、ベッドを通り越して窓際に立つ。

「今日もいい天気よ、窓開けない?」
「今日もいいよ」
「そう」

 拒否の言葉に、ちょっと残念そうな顔をしたが、

「じゃあ、わたしもそろそろ上がるわ」

 そう言って軽い欠伸をした。

「今から寝るの?」
「当直だったからね。明日に備えて休ませてもらうわ」

 矢野は「また明日ね」と言って病室を後にしようとした。

「あの、矢野さん」

 晶が、呼び止めた。

「どうしたの?」

 矢野が、振り向く。

「あの…アイコって知ってる?」

 思いきって訊いたつもりだった。

「なあに、それ?本の題名」

 しかし矢野は、これっぽっちの動揺も見せずに即答した。この結果に、晶の方が驚いた。

「いや…知らないなら、いいよ」
「…?」

 矢野が病室からいなくなった後、晶は枕の下から本を取り出した。

(また…)

 図書カード入れの手紙は、またも晶が書いた物とは違っていた。

「そんな…どうやって」

 朝からずっと今まで、本の感触は頭が覚えていたから、誰も手を出せるはずはない。なのに、自分とアイコの手紙は入れ替っている。

(どう考えても解らない…)

 晶は、理解出来ないことに困惑していた。






「遠い隔たりと信じられない近さ」の最初へ 「遠い隔たりと信じられない近さ」 16 「遠い隔たりと信じられない近さ」 18 「遠い隔たりと信じられない近さ」の最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前