「遠い隔たりと信じられない近さ」-16
職員室を後した少女は、勉強道具を取りに部屋に寄った。
教科書に参考書、ノート、筆記用具を手にした時、熱の出る元凶となった本が目に入った。
(そういえば、あれ…夢じゃないよね)
ひと晩経つと、あの返事が現実なのか夢だったのか、記憶が曖昧になる。
まして、頭が混乱して熱が出るようじゃなおさらだ。
少女は勉強道具を一旦置いて 、本を再び確かめた。が、やはり返事の書かれた紙が入っていた。
(やっぱり…)
どういう理屈なのかは解らない。でも、わたしと晶という少年が、意思の疏通をはかったのは間違いない。
(どうしよう…)
少女は悩む、再び返事を書くべきかどうかを。
このまま辞めてしまえば、晶という少年とのやり取りは途切れてしまうだろう。
しかし、それでは勿体ない気がした。
何より、こうなるきっかけを作ったのは彼女自身なのだ。
(もう一度、書いてみよう)
少女はメモ用紙に返事を書き入れ、晶が書いた物とを入れ替えた。
「これでよし…と」
後は、返事が来るのを待てばいい。返事がきたら、またこちらも返事を書こう。
「どんな子なんだろう…晶くんって」
すでに恐怖心は消えていた。それよりも、晶という少年のことを、もっともっと知りたいと思っていた。
母親が会いに来る日、晶はいつもより早く目覚めた。
緊張してるわけではない。むしろ心待ちに思っている。
しかし、前回の騒動からのことを思えば、母親はその後大丈夫だったのかと勘繰ってしまう。
そう思うと、深く眠れなかった。
ただ、今の晶には、それ以上に考えねばならないことが目の前にあった。
昨夜、図書カード入れに収めたはずの手紙は跡形も無く、代わりにこんな文章が綴れた手紙が入っていたのだ。
『晶くん、お手紙ありがとう。わたしの名前はアイコ、15才の女の子です。仲良くしようね』
(矢野さんじゃないのか?)
晶はあの時のことを思い出す。
手紙を書いたのは消灯30分前。それから翌朝までの間に、わざわざ病室に侵入して返事を書いたことになる。
(そんなこと…誰が?)
漠然とした疑問と共に、確かめてみたいとする意志が沸き上がった。
(もう一度、やってみよう)
晶は、アイコという女の子宛てに返事を書いた。