「遠い隔たりと信じられない近さ」-14
病室は、晶だけになった。
(消灯前か…)
晶は、傍らに置いた本に手を伸ばす。寝る前に今一度、手紙を確かめようとした。
(97ページ)
ページをめくり、挟んだ箇所にたどり着くと、
(あれ…?ない)
挟んだはずの手紙が無かった。みるみる、晶の顔が焦燥に変わった。
「そんな…確かここに」
周辺のページにもない。晶は、巻頭から1枚1枚、ページをめくって探してみる。
「な、なんで…」
気持ちが焦る。“もう一度やり直そう”という思いが、浮かばないほどに。
そしてとうとう、ページは巻末を迎えた。
「無くしちゃった…」
茫然となる晶。ありえないと思っていた。
その時、巻末のページがはらりとめくれた。目に飛び込んできたのは、図書カード入れだった。
人という者は面白い者で、追い詰められると、たとえ見当違いなことでも一縷の望みを託してしまう。
(ひょっとしたら…)
晶は、図書カード入れの中に指を入れた。すると、指先に紙のような感触が伝わるではないか。
そのまま指先を引き寄せると、見覚えある紙が顔を出した。
「よかった〜、ここだったのかあ」
安堵の表情をする晶。
「でも、なんでここに入れたんだろ?」
そう思って手紙を取り出した瞬間、晶は信じられない物を見た。
「な、な、なんだ?これ」
自分の書いたお願いの下に、誰かが返事を書いていたのだ。
『わたしが、お友だちになってあげる』
「だ、誰がこんな」
本に手紙を挟んでから、自分は片時も病室から離れていない。
なのに、いつの間にか手紙に返事が書かれてた。普通じゃありえない。
混乱する頭の中に、ふと矢野の顔が浮かんだ。