「遠い隔たりと信じられない近さ」-12
少女は、部屋に戻って紙片の挟まっていた本を確かめる。何処かに、図書館を表す証はないのかと。
スタンプは何処にもなかったが、裏表紙の内側に図書カード入れがあった。
中には、カードが入ったままになっていた。かなり以前のらしく、貸出日と貸出氏名、それに返却日がひとつの項目になっている。
(ここにも、スタンプなしか…)
足取りは途絶えた。
(後は、お母さんに図書館全部の場所を思い出してもらうしか…)
少女は紙片を手に取って、再び思考を巡らせる。
(友だちになって下さい…か)
たぶん、書いたのはわたしより年下だ。その子は、人知れず想いを本に託した。
でも、願いは叶わずに、そして本は図書館を離れて、此処にたどり着いた。
(そう思うと、可哀想…)
その子は想像していただろうか。友達と戯れる自分の姿を。
(あっ、そーだ!)
その時、少女は何かを思いついた。
おもむろに筆箱から鉛筆を取り出すと、紙片に何やら書き込みだした。
そこには、こう書かれていた。
『わたしが、友だちになってあげる』と。
願いの叶わなかったことを哀れに思い、せめて返事だけでもという自己満足のつもりだった。
少女は、紙片を図書カード入れの中にしまい込んだ。
しばらく、子供逹を見るような優しい顔をして本を眺めていたが、
「よし!気分転換終わり」
すぐに勉強するよう気持ちを切り替え、机に向かった。
それから3時間、時刻は深夜を迎えた。
そろそろ勉強を終えて眠りにつく頃だ。
(寝る前にちょっと…)
少女は再び、本に手を伸ばした。もう1度紙片を眺めてみたくなったのだ。
そっと、図書カード入れの中に指を入れた。紙片の感触を確かめ、上へと引き出す。
「えっ?」
少女は、わが目を疑った。出てきたのは紙片でなく、畳まれた1枚の紙だった。
「ここに入れたよね…」
図書カード入れの中を確かめるが、紙片は見つからない。
少女は、畳まれた紙を広げて見た。
「いや!何これ」
悲鳴にも似た声が、部屋に響いた。
紙には、少女の書き入れに対する返事が綴られていた。
『ぼくの名前は晶。10才の男の子です。友だちになってくれてありがとう』