「遠い隔たりと信じられない近さ」-10
「あの、先生…」
「どうした?」
「わたしを、放っておいてくれませんか?」
しばしの静寂の後、
「ど、どういう意味だ?」
ぎこちない受け答えの安西。明らかに動揺している。
「オレは、おまえのためを思って…」
「わたし…せ、先生の…あ、操り人形じゃないんです」
少女はとうとう、一線を越えてしまった。
「先生に指導されると、で、出来ない自分が情けなくなって…どんどんどんどん落ち込んで」
(それで、このところ変だったのか…)
安西は少女の心情を知って、哀しくなった。
(そんなことも見抜けないなんて…)
至らない自分を恥じた。
「分かった。今後の指導はやめよう」
「えっ!」
少女は驚く。てっきり、厳しく叱責されるだろうと思っていたからだ。
だが安西は、少し残念そうな表情をすると、
「生徒にストレスを与える指導じゃ、本末転倒だ」
優しく微笑んだ。
「あ、ありがとうございます」
「なに、気にするな」
話しは終わった。すでに窓の外は、暗くなっていた。
「こんな中を、女の子1人帰しちゃ危ないな。オレが送っていこう」
「い、いえ。いいです」
両手を強く振って拒否を示すが、安西も引き下がらない。
「いいから!下足場の前で待ってろ」
そう言い残して、職員室の方へと向かった。
少女が下足場から前にでたと同時に、安西のクルマが目の前に停まった。
「ほら、乗って」
強引ともいえる世話焼き。安西らしい行動に、少女は思わず苦笑した。
「失礼します」
クルマはゆっくりと走り出し、校門を出て一般道へと合流した。