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是奈でゲンキッ!
【コメディ その他小説】

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是奈でゲンキッ!-1

 なぜっ! どうしてっ! 
 何であたしがこんな事をする破目に成ってしまったのだろうか!?

 県内の公立高校に通う『朝霞 是奈(あさか ぜな)』17歳は、町外れに有る『丘の上公園』へと続く、長い上り坂の頂上で、なぜ! どうして! と、しきりにぼやいていた。
 見ると彼女は、家の近所にある『ホームセンター』で買った 16800の赤いママチャリに跨って。何をしようと言うのか、丘の上公園入り口から伸びる、長い坂の上にジッと立ったまま、眼下に伸びる長い坂道を見詰めて、青い顔をしながら ”ゴクリッ”と、生唾を飲み込んだりしていた。
 その横で、是奈の友達なのだろうか。数人の女の子達が彼女を取り囲むようにして、集まり。なにやら是奈に向かって、激を飛ばしている。

「大丈夫だよ! 是奈ちゃんならきっと出来るよ!」
「そうよっ! 朝霞さんって、運動神経良いんですものっ」
「根性だ、根性っ! 気合入れて行っけーーっ! 是奈っ!!」

 人事だと思って…… 口で言っているだけなら、何とでも言えるだろう。
 是奈は、無責任にも、煽り立ててくる友人達の激励の言葉を背中に浴びながらも。
(ったく! なに言ってやがるかなぁ、いったい何であたしがこんな事しなきゃなんないかなぁ!)
 と、心の中で叫びつつ、どうにも止まらない足の震えを、押さえきれずにいた。

 どうやら是奈。目の前に有る長い下り坂を、ママチャリでもって勢い良く、走り、下ろうとしているらしい。
 直線にして、ほんの200メートル足らずの下り坂では有るが。その両脇の所々に、是奈の奮闘振りを一目見ようと遣って来た、十数人のクラクメート達も、今か今かと、是奈の出走を待ちわびている様子であった。
 そんなギャラリー達の視線も熱く、とんでもない事を引き受けてしまったと、是奈の後悔は一入。
 罵声を浴びてでも、今直ぐに、この場から逃げ出したいぐらいである。

 事の始まりは、ほんの小一時間ほど前の事であろうか。
 ホームルームが終わって、掃除当番も無いし、何がしの部活をしている訳でもない彼女は。
 今日はもう、とっとと帰ろうかと、机の中に入ってた筆箱やらバインダーノートやらを、カバンに仕舞いこんで居た時のことである。
 不意に甲高い声で、興奮気味に話すクラスメートの、『佐藤都子(さとう みやこ)』の声に、聞き耳を立てた事が、そもそもの始まりである。


「ねーねー聞いたぁ! A組の『吉田 充(みつる)』くん。『氷坂(こおりざか)』で最速記録を更新したんだってぇ!」
 そんな事を、大声を張り上げ話す都子の言葉を聞いていた彼女の親友『中村 彩霞(あやか)』も、「うんうんっ」と、さも感心したかの様に、組んだ腕を上下に揺らすと。
「あそこの下り最速記録って、C組の『小林』が持ってたんじゃねーのかぁ!?」
 と、彩霞もまた、そんな事を言い出す。
 すると今度は都子が、パタパタっと自身の顔の前で手を振り、顰(しか)めたような顔をすると。
「それがさぁ。小林くん、野球部の練習で足をケガして依頼、自転車に乗れなくてさっ。どうやらその隙に、A組の吉田くんが、サクッっと記録更新したらしいよっ」
 そんな事を言いながら、手振り身振りで、仕入れた情報を、彩霞たち数人の友達に、公開したりする。
 そんな都子の、おもしろおかしくも、やたらと演出が濃い話を聞いていた『藤平 真由美(ふじひら まゆみ)』も、なにやら考え深げに口を挟み。
「でも男子って……どうしてそんな危険な事を、わざわざ遣ったりするのかしら? 何の徳にもならないだろうし…… 第一、事故にでもなったら大変じゃないかしら」
 てな事を、真面目な顔をして都子に尋ねたようであるが。
 そんな彼女の言葉に反応してか、彩霞が、真由美は全然解ってねーよなぁ! と言いたげな顔をすると。
「プライドだよ、プライドっ!」
 と、拳を握り締めながら、熱く叫んだりもする。
「プライドーぉ……! なにそれぇ」
 都子も、彩霞ってば、また訳の解んない事言ってぇ! と、呆れた顔をする。
「解っかんないかなぁ! 男ってやつはさぁ、負けると解っていても、戦わなくちゃ成らない時が有るんだよぉ。それが漢(おとこ)ってもんさぁ」
『ハアァ〜〜〜!?』
 そう、熱く語る彩霞ではあったが。
 そんな彩霞の熱弁も、どうやら都子と真由美には、全くもって理解できなかったようである。二人とも大きく口を開けたまま、彩霞の顔を見詰めて、固まって居た。

「そう言えばさぁ・・・ あの坂、下り降りた所って、先がT字路に成っているわよねぇ。スピード出して来て止まれなかったら、いったいどうなるの?」
 素朴な質問だったが、真由美の疑問は当然の事のようでもある。聞いていた都子も興味有りげに、身を乗り出して来た。
 すると彩霞が言った。
「ああっ、その先は田んぼだっ! ガードレールも無いし、止まれなきゃ突っ込んじまうだろうぜっ」
 そんな事をシラっと言ったりする。
 本当に男子のする事って解んないよねぇ! なんでそんな危ない事に、命を掛けて挑んだりするのやら。と、都子と真由美は顔を見合わせ、呆れて居た様子である。
「その何て言うのかなぁ… 危険を犯してまで、記録に挑もうとする気持ちっていうかぁ… そのスリルがこう……なんとも堪らないって言うかぁ〜。やっぱ……女には解んねーかぁ」
 人を馬鹿にしてような口調で、彩霞がそんな事を言い出すと。
(なに言ってんの! あんただって女じゃん!!)
 と、都子も脹れっ面をしたようだ。なんだか彩霞に馬鹿にされたようで、悔しかったらしい。
 真由美は彩霞の話に、もう呆れ帰って声も出ないと言ったところだろう。額に手を当てて、首を横に振るだけであった。


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