是奈でゲンキッ!-8
彩霞がそんな都子の携帯を奪い取ると、なにやら顔をニヤ付かせながら言い出した。
「そうだぁ、この写真を田原の野朗にメールで送ってやろうぜっ! そうすれば、普段透かしてやがるあいつだって、是奈の事が好きに成るに決まってるって!!」
えっ本気(マジ)っ! そんな事されたらあたし恥ずかしくって死んじゃうじゃない。と、是奈は額から油汗を流し捲くって、思いっ切り嫌がるが。
「そうだよ! その手があったよっ! せめてもの罪滅ぼしに、是奈ちゃんと田原くんの仲をわたし達で、取り持ってあげようよ!!」
などと都子まで言い出したから、たまらなかっただろう。
余計な事すんなぁーー! と、是奈は心で叫びつつ。
「やめて〜! お願いだからそれだけは止めてぇ〜〜!!」
と、是奈は慌てて、彩霞が持っている都子の携帯を、奪い取ろうとしたが。
彩霞は、そんな是奈の手を透かして、携帯を ”ポイッ”と真由美に手渡すと、
「誰か田原のメルアド知ってるかっ!?」
と、尋ねたりする。
真由美は手渡された都子の携帯を握り締め、
「確かぁ……うちのクラスの斎藤君が、田原君の親友だって聞いたけど。彼に聞けば教えてくれるんじゃない」
そう言って、頬っぺたを掻きながら、きっとそうに違いないと、自信満々な顔をしていた。
だからいいってば〜っ! 余計な事しないでぇ! そう思いつつ、是奈は。
このままでは本当にされかねない、早く何とかしないと。と、真由美の持っている携帯に手を伸ばす。
すると今度は、それよりも早く都子が ”サッ”と奪い取ると。
「そうと決まれば、早速! あした皆で斎藤くんに聞いてみよう!」
と、握り締めた携帯電話を高らかに掲げながら、宣言すると。
同じ様に、彩霞と真由美も、天高く腕を突き上げて、
『オォーーーッ!』と、勝どきならぬ、雄叫びを上げるのだった。
「だからぁ止(よ)さんか! こらぁー! あんた達、人の話ちゃんときいてるぅーーっ!!」
とかなんとか言いながら。その後も、彩霞、真由美、都子、三人の間をグルグル渡り歩く携帯電話を追いかけて、オロオロと走り回る、是奈であった。
数日後。〜〜
”チャンチャカ・チャカチャカ・チャンチャンチャ〜〜ン”
「っお! メールかぁ……!」
突然、携帯電話に飛び込んで来たメールに目をやり、嘉幸は何やら難しい顔をしていた。
見れば、『朝霞是奈、氷坂で新記録、”14秒08”達成っ!』などと書かれたメールに、一枚の写真画像が張り付けられていた。
言わずと、彩霞が嘉幸に送ってやると言い張っていた、是奈が田んぼへダイブした瞬間の写真であった。
お節介にも、嫌がる是奈の事を無視してまで、彩霞が送りつけて来た物なのか?
はたまた、その場に居合わせた、第三者の仕業だったのか?
取り合えずにも、嘉幸はその写真をシゲシゲと見ながら、一言。
「14秒08…… ふっ、朝霞さん…… まだまだ甘いなっ」
そう呟く嘉幸の口元が、意味ありげに ”ニヤリッ”っと吊り上がっていた。
おしまい。