全一章-15
「舞衣ね、こんな身体になって、いろんな事考えたの。元の舞衣はイヤな女だったなあって思ったよ。自分で自分を綺麗だと自惚れていたもの。入学式の日、誰もが舞衣を振り返るのが気持ちよかったわ。もう大人の気分だった。ママに黙って少しお化粧もして行ったの。それがこんな事になって・・・罰が当たったのよキット」
「そんな風に考えちゃダメよ。どれだけ善行を重ねている人だって、誰だって、いつ何時どうなるか知れたものじゃないのよ。そんな考えはお止しなさい」
「舞衣ね、事故に遭ってホントよかったと思うの。だってお姉ちゃんと逢えたんだもの」
「そんなこと聞いたらお姉ちゃん泣いちゃう」
「お姉ちゃんほど、舞衣の隅々まで知っている人はいないんだもの。ママも知らないところまでね。お姉ちゃんに抱かれながら、いつまでも抱いていて欲しいって思ってた。これって恋だよね。お姉ちゃんを恋人だって思ってていいんだよね」
「舞衣が抱けるんだったら、舞衣の奴隷になってもいいくらいよ。でも舞衣は・・・ホントのところユリじゃないでしょ?」
「そんなこと、今まで考えたこともなかったけど、だんだん舞衣もそうじゃないかなって思えたのよ」
「ちょっと無理があるかなあ」
「そんなことないよ。友達とふざけあって抱き合ったりするでしょ? 女の子同士って、肌がスベスベしていて、気持ちいいなあって思ったこと、あるよ」
「そう・・・それって、わたしもそうだった。そのまま、女性の肌触りしかダメになってたの」
「お姉ちゃんの口からお水もらったとき、もう、完全にお姉ちゃんが好きになってた・・・寒いって言ったら、一晩中抱いててくれたときは泣きたいくらいだった。ちょっと目を覚ますと、横にお姉ちゃんの顔があった・・・すごく愛されてるなあって思ったよ。もっと早く、キスして欲しかったし、抱いて欲しかったけど、余りにも舞衣、ひどかったもんね」
「これ見て」
「あ・・・舞衣の歯形? 痛かったでしょ。ごめんね。舞衣が舞衣じゃなかったんだよ」
「謝らないでよ。舞衣がくれた永遠に消えないわたしの勲章よ」
「舞衣ね、言っちゃおうかな・・・」
「なあに、気になるわね」
「あのね、今だから言うけど、お姉ちゃんの握る手が痛くて起きてしまったことがあったの。だから、お姉ちゃんのしていたこと、ぜぇーんぶ知ってるんだ。音も聞いたし、お姉ちゃんの・・・濡れてるの見たいと思ったし・・・そしてね、舞衣がしてあげたいって思ったもん。舞衣も絶対ユリよ」
「ギョギョギョ、悪い子ね。恥ずかしいなァ・・・恥ずかしー・・・」
「そんなこと言わないで。舞衣はもっと恥ずかしいとこ、全部お姉ちゃんに見せてきたんだよ。だけど、お姉ちゃんは介護のためだけじゃないんだ、舞衣のを見て興奮してくれるんだって分かって、とってもうれしかったんだから」
「うれしいなあ。舞衣がそんな風に思ってくれてたなんて、知らなかった。感激だわ」
「事故に遭ってから、何だかいろいろ見えてきたなあ・・・」
「舞衣って、スゴイわ。ほんと、わたし遅れてる」
「お姉ちゃん、遅れてるけど綺麗よ。舞衣も、お姉ちゃんのようないい女にならなくちゃ。じゃないと抱いてもらえないもんね」
「ああ・・・何だか歩きにくくなってきちゃった」
「濡れてきちゃったの?」
「ンもう・・・でも・・・舞衣が元気になって学校に通うようになったら、お姉ちゃんなんか忘れてしまうかも知れないわね。それが怖いわ」
「そんなこと言わないで。そんなこと言うんだったら、舞衣、いつまでも歩かないことにするからね」
澄み切った秋の昼下がりなのに、妖しげな会話を交わしながら、私は、舞衣がこのままずっと車椅子のままならいいのに、と、とんでもないことを考えて幸福感に浸っておりました。
<完>