序章-18
「うわわわわわ」
慌てたピートは思わず腕に力を入れてしまい、キャラは少し顔を歪める。
「落ち着け!!腰が折れるだろうが!!」
いくら普通の女より鍛えているとはいえ、男の力に敵うはずがないのだ。
「す、すみません〜」
「目を瞑るな!何のためにお前を連れて来てると思ってんだ!カイザスの意地を見せろ!!」
アースの怒鳴り声に恐る恐る目を開けたピートは、人生初の景色を見る事となった。
まるで模型のように小さくなった街並と城、窓から漏れる灯りが揺らめいてとても綺麗だ。
逆に反対側の海は暗く、澱んだ雰囲気。
ゴクリと生唾を飲むピートの肩を叩いたアースは、アビィを海へと向かわせた。
海の上空を猛スピードで飛び続けているうちに、ピートも慣れてきた。
バリアを体に張り付けるように張っているので、寒くはない。
「キアルリア、まだ行けるか?」
スピードが速いので魔力の消費も早いはず……キャラの体力を心配したアースが声をかける。
「ん……後20分ぐらいは行けそう……」
「わかった。ピート何か見えるか?」
「……北東の方向、2キロ……確かに海が凍ってます……」
2キロ先が見えるのか、とアースは驚く。
魔法で視力を強化してもそこまでは見えない……恐るべしカイザス……。
「……あと、海の上に何かいますね……空気が白んでて良く見えませんが……」
「魔法でお前の視力をもう少し増幅できるが……どうする?」
魔法をかけられるのを嫌がる人間もいるので一応聞いてみる。
「お願いします」
「いい度胸だ」
アースは手を伸ばしてピートの目を塞ぐと呪文を唱えた。
「増!眼!」
大人しく目を閉じていたピートは、眼球が熱くなるのを感じる。
「ゆっくり開けろ」
手を退けたアースの言葉に従ってゆっくり目を開けると、白い空気の正体は異常に濃い霧だった。
そして、霧の切れ間から黒く蠢く影が見える。
「あれは……魔物!?」
蠢く影は魔物の大群……北の大陸から凍った海を渡って押し寄せて来ていた。