上級悪魔と下級契約者―俺達は天使じゃない。だから悪魔なんすよ、な、似非戦闘物語―-2
「まだだ。まだ、終わらんよ…」
その場から離れようとしたアンの背後で男は立ち上がる。
「…今から、私が殺す人間の名を聞いてもよいか?」
「…今から、俺が滅する悪魔の名を聞かせてもらおうか?」
アンと男の間合いが徐々に詰まる。
「神使徳っ!」
一気に男が間合いを詰める。
それに合わせてアンも一気に間合いを詰めようとした。
「我が名は、アンド…」
「馬鹿かー!」
どこからともなく現れた楓がアンの頭をハリセンで叩く。
アン、地面にめり込む――。
「用事はもう済んだ、帰るぞ」
「楓、お前はいつもいつも―」
「五月蝿!なに人殺そうとしてんだ!」
「なんだ!悪いのか殺しちゃ!」
「悪いに決まってるじゃねぇか!」
徳は、唖然としながら二人のやり取りを見ている。
殺人を止める美しい悪魔の契約者と、その指示に嫌々ながらも従う悪魔。
そんな関係が成立している目の前の二人。
『これは、まさか―』
「あなた方は、天使様と神側に戻ろうとしている堕天使ですね」
いまだに不毛な言い争いを続ける二人に唐突にそんなことを言う徳。
「はっ?」
訳がわからず固まる二人。
「わかってます。人を殺さない悪魔なんている訳がないんですから」
「何を言って―」
「いえ、言わなくてもわかってますから、きっと人には言えない規則なんですよね」
「だから―」
「なら、きっと真夜は生きてるんですね」
「まぁ、そこはあって―」
「そっか、あいつは天使様のもとで修行しているんですね!」
「…」
「じゃあ、あいつは今まで以上に―」
話し続ける徳を冷たい目で見る二人。
「アン…」
「なんだ、楓」
「今更、言うのもなんだが…」
「なんだ、言ってみろ」
息を吸う楓。
「殺っちまいな!!」
「断る!」
アン、一瞬の間も置かず答える。
「さっきまで殺すな、なんだ言っておいて今更それはないんちゃうんか?ああ!」
「知るか!俺が今思ったことをお前が実行する。それの何が悪い!似非関西弁なんぞ使いやがって!」
「似非?似非だと?貴様、人間風情が私を馬鹿にするつもりか!」
「馬鹿にする?それは馬鹿じゃない奴にしか出来んことだ。元から馬鹿な奴を馬鹿にしてもそれは事実を言っているにすぎんのだよ」
また、不毛な言い争いを始める二人。それを見て徳が、
「やっぱり、理想の関係だ」
「やかましーい!」
楓、徳を叩き倒す。
「さっきから訳の分からんことを言いやがって。コイツは悪魔で俺は契約者だ!そこんとこ間違えないように夜露死苦!」
楓、一種のトランス状態になっていて自分でも何を言っているのか分からない。
「楓、こいつ気絶してるぞ」
アン、冷静に指摘。
「なっなんだってー!こいつには聞きたいことが山ほど―」
「あったのか?」
「いや、特には…」
「…まぁ、こいつの心を視たからある程度の情報は―」
「神使徳、10月15日生まれの20才、血液型B、身長178、体重58―」
楓、徳の個人情報を言う。
「加藤真夜、まぁ、つまり我が家の居候二号に恋心を抱いており、告白をするが振られ、むくわれない思いから、盗撮、ストーカー行為にはしるも、真夜にばれ、世にも恐ろしい報復を受けることとなる。徳が真夜にどのような報復をうけたのか、それはエクソシスト達の間で長年の謎とされるが、本人達に直接聞こうとする猛者はいない」
「どこからそんな情報を…」
「お前はまだ探偵部の力を把握しきれてないようだな。奴等の調べるは、一般常識では理解できないことまでやる。昔、ある湖から水が無くなるという事件があったのだが、犯人は奴等だぞ」
415境湖事件。
境湖に生息するといわれていた古代生物が本当に存在するのか確かめてきてくれとの依頼をうけた探偵部が、映画部が撮影している中境湖の水を全て抜き、古代生物が存在しないことを証明し、探偵部の名を学校中に広めた探偵部の偉業である。
探偵部の偉業は、まだまだある。
その一つに、山口組壊滅戦という事件がある。
麻薬にはまった友人を助けるため麻薬ルートの調査を依頼された探偵部が―
その事件がきっかけで『娘虎高槻楓』と『隠龍神宮司暁』は出会ったのであるが、その話はまた後にしよう。