満天の星-1
「たまにはこうやって、星をゆっくり眺めるってのもいいもんだな」
傍らに腰を下ろす充が、夜空を眺めながら言ってきた。
そんな充の言葉に、健史は鼻で笑う。
「出来れば、俺の横にいるのがお前じゃなくて女の子だったら、もっとロマンチックなんだけどな」
冬の澄んだ空気の中、晴天の夜空に輝く星々。
部活帰りに河川敷の土手で親友と夜の星を眺めるなど、まさに絵に描いた様な青春の情景だなと健史は思った。しかし残念ながら練習後の空腹な健史には、美しい星の輝きよりも今晩の夕食は何かという興味の方が今は勝ってならない。
「いいじゃん、こうやって美しい友情を育むってのも」
「どう考えても腐れ縁をもっと腐らせてるだけな気がするんだけど」
「何だよ、俺じゃ不満?それなら、もっとロマンチックな演出をしてやろっか?」
「お前とロマンチックにとか、そっちの方がお断りだっつーの」
そう言って、さすがに星にも見飽きた健史は芝生から立ち上がろうとした。
しかしそんな健史の肩へ、充の片腕が回されてくる。
いきなりの事に驚かされる中、そのまま充によって健史の身体は強引に抱き寄せられてしまう。
「遠慮するなって、俺達の仲じゃん」
「お、おい……!バカ、人が見たら誤解する真似はやめろ!」
人気の少ない場所と時間とはいえ、慌てて健史は周囲を見渡す。
「誤解って、どういう?」
不敵な笑みを浮かべながら、充はそのまま健史の首元へと顔を埋めてきた。
間髪置かず、襟首から伸びる健史の首筋へ充の舌先が添わされる。
「あっ……!」
反射的に、健史はビクッと大きく身を震わせてしまう。
「健史、敏感なんだ」
「ちょっ……充……!」
堪らず、健史は必死になって充の腕の中で抗った。
しかし充はさらに首筋から耳元にかけ、健史の肌をゆっくりと舐め上げていく。
「や、やめっ……んぁっ……あっ……」
「そんな色っぽい声で喘がれると、こっちとしてもマジでその気になっちゃいそうなんだけど」
「てめぇ、ふざけんな!」
渾身の力で、健史は充の身体を押し退けた。
すっかり狼狽してしまう健史を余所に、充は何ら悪びれる様子もないままどこか悪戯っぽく微笑を浮かべる。
「健史、顔真っ赤だぞ」
充の言葉に、健史は思わずドキッとしてしまう。
「うっせーんだよ、バカ!」
気まずさを誤魔化すとばかり、夜空の下で健史は叫んだ。