部活と冷静男と逃亡男-6
つばさの手が上がり始める。
本能の衝動を振り払い理性に従い、せめて見ないようにと顔を背けようとしたが、体は石になったかのように動かない。
つばさの手は止まらない。
体とは逆に感覚だけが研ぎ澄まされ、全てがスローモーションのように感じ、しかし、首どころか視線すら動かせない。
ふと、つばさがこちらの顔を見たのが視界の端に映った。
何かを言おうとしたが、喉がカラカラに渇いて声が出ない。
つばさは不思議そうな顔をしたのも一瞬、再び手を動かす。
あと数センチ。
心臓が爆発しそうに暴れる。それなのに、体はぴくりとも動かない。
手は、もう止まらない。
動け、動け、早く動けよ!
焦燥だけが募り、時間は間延びしていくようで。
そして、つばさの手は、ついに――
「どう? 短くなんかないでしょ?」
「ん、ああ……」
ふふん、と笑ったつばさに、僕はあいまいに相槌を打つ。
結局、僕の紳士的な頑張りも虚しく、目を逸らすせずにほとんど釘付け状態でこの瞬間を迎えてしまった。いや、これは僕の意志が弱いとかつばさの言った通りにスケベだとかではなく不可抗力というかタイミングが悪いと言いますか。
はうぁ! 誰も見てないはずなのに世間様の視線が痛い!
とにかく、しっかりと見えた。見えてしまった。
……スカートの下に履いていた、体操服の短パンが。
こいつ、ああっ、もう! 男の夢をなんだと思ってんだ!
「顔、真っ赤だよ。どうしたの?」
「…………」
「なんか変だよ、今日のいっちー」
「…………うるさい、行くぞっ」
今はいぶかしげな視線すらも痛い。早々に話を切り上げなくては恥ずかしさで死んでしまいそうだ。
もしかしたら、世界初、死因が『恥ずかしさによる死』になってしまわないとも言い切れない。
「変なのっ」
再び前を向き歩きだすと、つばさがすぐに隣に並ぶ。
何やってんだか、本当に。