部活と冷静男と逃亡男-5
「うん」
ほらやっぱり。それにしても、
「……いい加減に人を疑うことを覚えろよ。いつか大変なことになるぞ」
「うーん、いいんじゃないかなぁ、このままでも」
「……言い切る根拠はどこにあるんだか」
あまりにも楽観的に考えているので、思わずため息を吐いた。
「――だって、だまされそうになったら、いっちーが助けてくれるでしょ?」
「…………」
にっこりと笑顔で言われて、たぶん僕の顔は一瞬で真っ赤になったと思う。
「……助けるかなんて分かんないぞ」
「じゃあ助けてくれないの?」
「いや、そうゆう事じゃ……」
「ほら。いっちー本当は優しいもんね」
普段ならよく臆面もなくこんなことを言えるものだと少し感心するところだ。
だが、今は照れてそれどころではない。
「…………」
「そんな優しい優しいいっちーは、快く私の言うこと聞いてくれるよね?」
「ん、あぁ……っと、残念だがそれとこれとは話が違う。ダメなものはダメだ」
その場の雰囲気と良い笑顔に、危うく頷くところだった。危ない危ない。
それでも納得できないらしいつばさは、笑顔を一変、つまらなそうに文句を言う。
「ケチ〜! 部屋あさらないからさぁ」
「ダ・メ・だ」
「寝るときも、ちゃんと背中向けるよ?」
「意味分からない。って言うか、僕の部屋にもう一つ布団を敷く余裕なんてないぞ」
「いいよ、ベッド一つで十分だし」
「…………え?」
それはどうゆう意味なのでしょうかと僕は切に問いたい。
いや、別にやましい事を期待しているとかそうゆう訳では決してないのだ。本当に。
しかし、若い男女がベッドが一つだけで間に合うということは、つまり、
「私がベッドで寝て、いっちーは立って寝るからおっけーだね」
……そうゆう意味らしい。
どこがOKだ。
ただ、僕はこの成り行きにまったく落胆などしていない。
始めから変な期待なんてこれっぽっちもしてなかったので、落胆なんてするわけないのだ。本当に。負け惜しみなんかじゃなく。
「ん、今エッチな事考えてたね? ねえ、当たり? ずばり当たりでしょ」
別に図星なんかじゃない。ないのだが、なんか腹立つ。
「……」
「ふっふっふ、私の迷推理に反論もできないんだねっ」
自分で迷推理とか言うな。と思ったが、一つ言えば十で反論されるだろうから心の奥底に秘めた。
代わりに、子供のように勝ち誇っているつばさに背を向け、部室に行こうとする。
本当はすぐに帰りたいが、部活に出ないと帰してもらえそうにもないので仕方なく。
「あれ、敵前逃亡? 重罪だよ?」
「……死ぬまで言ってろ。先に部室行ってるぞ」
振り返るのも面倒なので、声だけ返す。
「あ、待ってよー」
間延びした声の後、やや小走り気味な足音が着いてくる。
「いっちー歩くの早いよー。少しは他の人のこと考えなよっ。自己中、僕様!」
「これがいつものペースだ。恨むなら自分の足の短さを恨め」
「むっ、短くなんかないもん!」
「口では何とでも言えるよな」
「じゃあ証拠見せてあげようか?」
「証拠?」
「うん」
何だろうかと思い歩きながら振り返ると、つばさがスカートの裾を掴み捲り上げようとしていた。
「――っ!?」
制止しようにもいきなりのことに頭が回らない。さらに、心のどこかでこれからの事態に期待を抱いている自分もいたり。