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悪魔とオタクと冷静男
【コメディ その他小説】

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部活と冷静男と逃亡男-16

「あの……まだ分け方の話が終わってないですけど」
 いや、状況のおかしさに気付いた人物が一人いた。
 今まで沈黙を守ってきた凛だ。
「あ、そうだよー。由紀ちゃん、早く決めようよ」
「っと、そうだな。忘れてしまうところだったよ」
「さっすが凛ちゃん! すごいね。気が利くね。同じ女の子なのにどっかのバカみたいにエキセントリックじゃなげふぁ!」
 足に美奈のローキック、鳩尾に由紀の肘をそれぞれ喰らい、哀れにも奇声を上げて崩れ落ちる拓巳。
「拓巳く〜ん、調子に乗っちゃダメだよ」
「身分不相応な発言の報いだな、これは」
「……」
 凛が思うに、どう考えても一言に対する報復にしてはやりすぎだが、怖くて口には出せなかった。
「さて、班分けだったかな。話し合うのも面倒だから、ジャンケンで決めるか」
「そうだね。じゃあ、グーかパーで。出さなかったら……分かってるよね?」
 美奈の言葉に、床に崩れたままの拓巳が必死に頷いた。
 かくして、これといった問題もなく(一回目に拓巳がなぜかチョキを出して制裁を受けた。合掌)グループ分けが終了した。
 数分後。
「いやー、実際死ぬかと思ったよ。ローもきつかったけど、やっぱり肘だね。キレイに鳩尾に吸い込まれたんだもん」
「わあ、た、大変だったんだね」
 拓巳・凛グループはどこを目指すでもなく特別教室棟の廊下をうろついていた。
「だいたいさぁ、部活作るならはじめから部室ぐらい決めとけって話だよ。あいつらの無計画なとこはちょっと問題だよね」
 本人達がいなくなった途端に態度がでかくなる拓巳の性格も、それはそれで問題とも言える。
「面倒くさいなぁ。ねえ、今の内に帰っちゃおうよ」
「でも、穂沢さん達にばれちゃったら? 明日も学校あるし」
「……だよね。まったく、嫌になるよ」
 凛は拓巳の愚痴に相槌を打ちながら、この面倒な仕事の内容を反芻していた。
 部室探し、と美奈は言っていたが、話によると正しくは部室の明け渡し交渉だ。
 なんでも美奈の持論によると、貴重な青春の舞台たる部室は、イコールくつろげる場所でなければいけないらしい。
 また由紀によると、時には気の合う友との熱い語らい、時には二人きりの部室での甘い蜜月(女子同士限定とのこと。少し引いた。勘弁してください)などを演出するには、自分の部屋のように馴染める教室でなくてはダメだとも。
 しかし現実問題、余っている教室は生物教室のみ、くつろぐのには適していない。
 なので、それぞれの教室に回って、説得するなり強行手段を行使するなり色仕掛けを使うなりして、部室を交換してもらえ、というのがさっき聞いた話の全貌だ。
「……そんなにうまく行くかなぁ」
 どうにも無茶苦茶な理論に、どうしても疑問が残る。
 そもそも、帰宅するだけが活動内容の部活に、なぜ部室が必要なのだろう。
 もしかしたら短絡的かつ無思慮な行動に見えても、実は凛には理解できないような高尚な理由があるのかもしれない。だが、やはり巻き込まれることを考えると、熱い青春ドラマを望むだけなら家でやってほしいと思ってしまう。
「だるいなぁ。てきとーにやってさっさと終わらせよっか」
「あ、うん」
 それをやる気と呼んでいいのかは分からないが、一応やる気になったらしい拓巳は、一つの教室の前で止まり戸に手を掛ける。
 その瞬間、扉一枚を隔てた中から、椅子か何かが倒れるような音が聞こえた。
 顔を見合わせる凛と拓巳。
「……は、はは。開けたらケンカ中だったりしてね……いや、まさかね」
 僅かに表情を険しくして呟きながら、拓巳は戸に掛けた手に力を入れた。
 戸は加えられた力のままに横に滑り、

「いっ、いやぁぁぁぁぁぁっ!」

「!?」
 突然の悲鳴にビクッとして、思わず動きを止める二人。そして、開け放たれた戸の向こうの光景に目を奪われた。
 その目に映るのは、床に倒れている小柄な女子と、覆いかぶさるような体勢から半ば吹っ飛ぶように倒れる男子。
 ……うわぁ。
 かなり『微妙』な感じのする状況だった。


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