「超合体浪速ロボ・ツウテンカイザーV〜新世界征服ロボの挑戦〜」-7
やがて、カチャリという小さな音と共に日記のベルトがゆるみ、十文字博士は再び不敵な笑みをディスプレイの向こうにいるユーナに向けた。そして、適当なページを開くと、笑いを堪えながら日記を読み上げる。
『こほん。ええ、○月×日…天気は晴れ。今日のお天気は雲一つ無い快晴で太陽さんは私に意地悪をしているよう…。今日の私はちょっぴりおセンチさんで…』
「うわぁあああああっ!!わぁあああああああっ!!!やめろぉぉおおおっ!!やめんか、この卑怯者ぉおっ!!」
何とか日記を他人に聞かれまいと、大声を張り上げるユーナ。しかし、十文字博士は全く意に介さない。
『ふん、悪人に卑怯と罵られてこそ正義の誉れっ!!』
「博士、それ、激しく違う……」
胸を張る十文字博士と、取り敢えず突っ込みを入れる恭子。そして、当のユーナは怒りと恥ずかしさで目に涙を浮かべ、歯ぎしりして悔しがった。
「むむぅううっ!!この屈辱、絶対に忘れんぞっ!!」
ついにユーナは捨て台詞を残し、空の彼方に飛び去った。一瞬で肉眼ではその姿を捉えられなくなり、司令室のレーダーからも直ぐにグランパスドラゴンの反応は消えた。
「……さて」
グランパスドラゴンの脅威が去り、ひよこは小さく咳払いをしてツウテンカイザーを振り向かせた。そこには律儀に事の成り行きを見守っていたザンジオラが、グロテスクな顔をやや引きつらせて立ち尽くしている。
「よおも、よってこってボコにしてくれたなぁ…」
怨念のこもった声を絞り出すひよこ。心なしかザンジオラは気圧されたようにも見え、じりじりと後ずさっていく。
「逃がさへんでぇっ!!」
通天剣を振りかざし、ザンジオラに躍り掛かるツウテンカイザー。
『待て、ひよこっ!その火星獣にはどんな特性…が』
ひよこを制しようと王鷹が叫ぶがその声はひよこの耳には届かず、次の瞬間、火星獣ザンジオラは通天剣によって一刀両断にされていた。
数刻後、機転?を利かして火星を救った十文字博士は、司令室にある自分の椅子に、鼻高々でふんぞり返っていた。
「わははは、正義は必ず勝つっ!!」
「なんか、この世で一番の外道はお父ちゃんみたいな気がするわ…」
呆れて、と言うより見下げ果てた様子でひよこが呟く。しかし、十文字博士にはどんな非難の声も通じない。
「何を言うか。正義を貫く為には、時には心を鬼にして、どんな卑怯な手段でも使わなあかんのやっ!!」
とんでもない事をきっぱり言ってのける十文字博士。しかし、次の瞬間、スチュワルダのコークスクリューパンチが十文字博士の頬にめり込み、その反動で博士は枯れ木のように吹っ飛んだ。喜悦に顔を歪ませて悶絶する十文字博士。
「そんなわけありますかっ!!こんな卑怯な手段、喩え天が許しても私が許しません。この日記帳は私が預かっておきますからねっ!!」
スチュワルダはそう言うと、十文字博士の手からこぼれ落ちた日記帳を拾い上げた。
「そうですね、そんな日記に頼らない方がいいですもんね。今度ユーナさんが決闘を申し込んできたら、私、何とか説得してみます…」
恭子はそう決意するが、傍らのひよこは露骨に懐疑的な顔を見せる。
「あのお姉ちゃんが、そう簡単に改心するように思えへんけどなぁ…」
そう言って、処置無しと言った感で首を振るひよこ。果たして、ひよこのその予感は見事的中する。
「ちわ〜〜っす、火星軒です。ご注文のラーメン五十人前とチャーハン五十人前、餃子百人前、お届けに上がりましたぁ」
突然、おか持ちを持った集団が司令室に出前を持ち込んできた。
「はあ?私ら、そんな仰山、出前頼まへんけど…」
首を傾げるひよこ。しかし、この出前を皮切りに、火星中の飲食店から膨大な数の出前が押し寄せてきた。
「ちわぁっす。ご注文の特上鰻重肝吸い付き二百人前…」
「へい、おまちぃっ!!天ぷらうどん百人前に天丼百人前…」
「リカーショップオリンポスです。ご注文のビール五百ケース…」
「わ、わっ、わっ、何や、何や??」
「ピザ・マーズです。火星のタコさんピザ百人前…」
「ご注文になりましたチキンのセット二百人前…」
「バーガーショップマーズナルドです…」
「火星寿司の…」
「…ご注文の」
「チョコレートケーキ…」
「……人前」
「くっそおぉおおっ!!あのお姉ちゃんも、陰険さでは絶対負けてへんっ!!陰険性悪ロボオタ娘めぇえ〜〜っ!!」
どんどんと持ち込まれる出前の山に、たまりかねて怒声を上げるひよこ。
しかし、ひよこの叫び声は、虚しく火星の空に響くのみであった。
了。