異界幻想ゼヴ・クルルファータ-33
男に案内され、一行は引っ込んだ路地に建てられた屋敷に招待された。
植え込みや噴水が配置された豪奢な前庭を通り抜け、玄関にたどり着く。
「……ずいぶん厳重な警備だな」
「さすがはボスの屋敷、という所だな」
ジュリアスとヴェルヒドは意見が一致し、顔を見合わせてニヤリと笑う。
吹き抜けのある広々とした玄関ホールに足を踏み入れると、しっとり落ち着いた黒のドレスを纏った年配の女性が出迎えた。
「いらっしゃいませ。お嬢様方は、こちらへどうぞ」
婦人の言葉に、深花とウィンダリュードは互いを見遣る。
「殿方はそちらへ。あなた方、何日もお湯を使ってらっしゃらないご様子。そんな汚い身なりで我が君と面会させるわけにはいきませんわ」
物言いは柔らかいが有無を言わせない婦人の口調に、ティトーは自分の腕に鼻を近づけた。
「……麻痺してるな。全く分からない」
「まあ、ホストの御意向には従いましょうか」
デュガリアは剣帯からエストックとパリーイング・ダガーを外し、脇から近づいてきた男に差し出した。
「……だな」
ジュリアスが頷いて、武器を外し始める。
「行ってこい。さっぱりしてから落ち合おう」
ヴェルヒドの言葉に送り出され、二人は歩き始めている婦人の後ろについていくのだった。
浴場に案内された二人は、服を脱いで湯舟に浸かった。
旅着を脱いだ深花の肢体に、ウィンダリュードはむっとする。
抜けるように白い肌には傷やシミ・黒子の類が見受けられず、実に綺麗だ。
出る所は出ているしくびれるべき所は細く、バランスのいい体型をしている。
体を洗って汚れを落とすとそれらがより強調されて、凹凸の乏しい幼児体型のウィンダリュードは不機嫌になった。
長いピンクの髪に櫛を入れながら、ウィンダリュードは唸る。
体型が羨ましいほかに髪のもつれがなかなか解けず、唸りながら悪戦苦闘していると見かねたらしい深花が近づいてきて櫛を取り上げた。
「ちょっとごめんね」
深花は櫛を操り、もつれを綺麗に解いて髪をくしけずる。
「……ありがと」
梳き終わった髪をタオルで包まれると、ウィンダリュードはいちおう礼を言った。
「どういたしまして」
櫛を浴槽の外に置き、深花はウィンダリュードの隣に腰掛けた。
「……私達、どうなるのかしら?」
「知らないけど、すぐに殺すつもりはないわね。でなきゃ家に招待して着飾らせようとは思わないでしょ」
「着飾らせる?」
何でそこまで話が飛ぶのかと、深花はウィンダリュードを見つめる。
「ぼろっちい格好のままでボスと対面させる気がないから風呂に入らされてるこの状況で、さっきまで着てた臭い服をそのまま着せるわけないでしょ」
「あぁ、なるほど……」
「……本っ当にあんた、そういうとこの推察とか常識とかが備わってないのね」
呆れた風に呟くと、ウィンダリュードは立ち上がった。
お湯が玉になって、華奢な体を滑り落ちていく。
「先に上がるわよ。着飾るのはけっこう時間かかるから、男連中を待たす事になっちゃうし」
「あ、私も」
ウィンダリュードに倣って、深花も風呂から上がった。
するとどこからともなくメイドが現れて、二人の体を拭き始める。
「いや、あの、ちょっ……!」
「体を拭くくらい自分でできるぅーっ!」
騒ぐ二人の意見は完璧に無視され、次のメイドが下着を持ってきた。
とろりと肌に馴染む最高級のシルクでできた逸品が、手早く着けられる。
所々に宝石が縫い留められたいかにも高級感溢れる一式を見て、ここのボスは一体何がしたいのかと深花は思った。