異界幻想ゼヴ・クルルファータ-25
「どうしてあなた方が協力者なのかをお聞きするのは、ティトー殿の合流を待ってからの方がいいでしょう。とりあえず今は、野営の準備という事でよろしいかな?」
「ちょっと行った所に農村がある。干し草小屋でも借りれば、手間が省けるぞ」
ヴェルヒドの言葉に、デュガリアは首を振る。
「先程そこの人間に襲われて、一人殺してしまいましてね。僕は非友好的な人間だらけの村に泊まるほど、無用心な生き方はしていません」
「なに、文句など言わせるわけがないだろう」
力こぶを作ってみせると、ヴェルヒドは歩き出した。
「俺達はそちらに危害を加えない。お前達もこちらに危害を加えない。不審な奴は共同で叩く。シンプルだろう?」
人間の基本的な営みは、世界が違っても変わらない。
刈り取って干された藁の匂いを吸い込んでから、深花はそう思った。
農家は穀物を刈り、家畜を馴らして日々を過ごしていく。
サボナ森林地帯で見た農家も一夜の宿を借りたこの農家も、どちらもそれらを連綿と続けていた。
近くの厩舎で、家畜が鳴く。
眠れなくて、深花は寝返りを打った。
気のいい農夫の家族が貸してくれた毛布が体の下で藁とこすれ、わしゃわしゃと音を立てる。
「寝たか?」
隣で寝ているジュリアスの気遣わしげな声に、深花はそちらを見る。
「……うん」
返事をすると手が伸びてきて、優しく額をつついた。
「眠ってたら、返事なんかするわけねえだろ」
くすりと笑って、深花は額をつついた手を握る。
「お前、体は平気なのか?」
「うん……大丈夫」
たぶん敵バランフォルシュに乗った経験のあるミルカは自分だけだと思うので、あの中で何があったのかは打ち明けておく事にした。
「私のバランフォルシュはさ」
「ん?」
「私を傷つけようと……殺そうとしたけど、こっちのは違った」
たぶん神妙な顔つきになったのが、気配で分かった。
「あの触手がね……形、違ってた」
言うのが恥ずかしくて、握る手に力を込める。
「その……男の人のと、そっくりで……」
動揺の気配が伝わってきて、深花は余計に恥ずかしくなる。
「それでエネルギーの供給が始まると、うねうねうねって何本も体にまとわり付いてきて……」
「それが、バランフォルシュの快楽の正体か……」
毎度そんなプレイをあの華奢な体で受け入れていたら、そりゃ活動限界までの時間も短くなるだろうとジュリアスは思う。
「……よく喋る気になったな」
もう一方の手が伸びてきて、頭をわしわし撫でた。
「だって……」
深花は、歯切れ悪く言い淀んだ。
自分が死んでしまったら、誰も知らないままになってしまうだろうから。
言葉にしたらジュリアスに怒られそうなので口をつぐみ、代わりに横たわったその体に自分の身を寄り添わせる。
それがごまかしだと分かっていても、ジュリアスは深花を受け入れた。
ジュリアスだって馬鹿ではないから、深花が口にしたら自分が怒るような動機からこんな事を打ち明けてくれたのだろうと見当はついたからだ。
「とりあえず、今は休め」
優しく言って、額に唇を触れさせる。
「……ん」
耳を澄ませば、他の三人の寝息が聞こえた。
目を閉じた深花はジュリアス共々、眠りの中に沈んでいった。
二人が眠ってから、やおら三人は頭を上げる。