異界幻想ゼヴ・クルルファータ-24
「さあ、これより醜い死体を晒したい身の程知らずはどなたかな?」
刀身を振るって血糊やまとわり付いた物を振り落としながら、デュガリアは自分を囲む男達を挑発する。
ほんの二・三手でいかにも手強そうな農夫を瞬殺した白皙の美青年に、即席強盗団はお互いの顔を見合わせた。
「来ないのでしたら、こちらが選んでも構いませんよ?」
ゆっくり一歩を踏み出すと、包囲している男達は三歩ばかり後ずさる。
「おや、どうされました方々?僕を殺す自信があったからこそ、このようにろくでもない振る舞いに及ぶ事を考えついたのでしょう?」
エストックの刃先が、前列にいる男達の顔に狙いをつける。
かしゃりと音をさせてパリーイング・ダガーに仕込まれた対戦相手の刃を搦め捕るためのギミックを動かせば、自信を喪失した男達は蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。
「ふん、呆気ない」
侮蔑を込めて呟いたデュガリアは、殺した農夫の服をダガーで適当な大きさに切り裂く。
その布きれでエストックの手入れをしつつ、用心深く周囲を見回した。
遠くにちらほらと、民家らしき明かりが見える。
そこの稼ぎ頭の一人をたった今エストックの犠牲にしてしまったのだから、立ち寄って情報収集を試みるのは無謀すぎる行いだろう。
とりあえず、自分がダェル・ナタルの人間でない事がばれなかっただけで儲けものだと思うしかない。
刃の手入れを終えたデュガリアはエストックを腰の鞘に収め、再び歩き始めた。
とにもかくにも、ジュリアスと深花を見つけて合流する事だ。
決意も新たに歩き始めていくらもしないうち、地震のような揺れが近づいてくるのに彼は気づく。
相当な重量物が歩いてくる地響きに、デュガリアの口許は綻んだ。
おそらくは、レグヅィオルシュだろう。
立ち止まって二人を迎えようとしたデュガリアだったが、さすがに呆気にとられる事となる。
なにしろ、先頭を切ってやって来るのは話にしか聞いた事のない黄色い神機バランフォルシュ。
少し離れて、二体のレグヅィオルシュがついて歩いてくるのだ。
神機召喚が解除されると、その場に四人が降り立った。
「……ずいぶん風変わりなメンツですね」
「デュガリアさん」
警戒しているデュガリアに、深花が声をかける。
「私を信用できませんか?」
ふっと、デュガリアは笑った。
「そうですね……もしもあなたが本物で正気なら、僕の抱擁とキスでも受けていただきましょうか」
「なんだお前達、そういう仲なのか?」
ヴェルヒドの声に、深花はジュリアスを見上げる。
沸点が低く、感情を露にする事に躊躇いのない気質の男が……全くの無表情で、デュガリアを見据えている。
静かすぎてかえって不気味なのだが、今はデュガリアの警戒を解く方が優先だ。
弁解は、後でいくらでもできる。
「分かりました。今からそっちに行きます」
両手を挙げて、深花はデュガリアの元へ行った。
「ようやく会えましたね」
デュガリアは深花の頬を両手で挟み、唇を近づける。
触れる寸前、深花の手が唇の間に割って入った。
「……合格」
嬉しそうに、デュガリアは笑った。
「本物で正気なら、僕の事を拒否するはず。間違いなく、あなたは正気の本物だ」
「え?あんたらそういう関係じゃないの?」
ウィンダリュードの声に、デュガリアはくすくす笑う。
「もちろん違いますよ。お二方が洗脳でもされていたら僕の言う事を鵜呑みにし、そのままキスしていたでしょう……その場合、これが閃いていた事になる」
デュガリアの手が、エストックを揺らした。
自由になった深花は、ジュリアスの横へ戻る。
「では、本物と確信が持てた所でお聞きしましょう。あなた方、何者です?」
ヴェルヒドが、ニヤリと笑った。
「聞いて驚け。俺はアラクスィア、ヴェルヒド。こっちがサリュリウェル、ウィンダリュードだ」
「……ほう」
目を見開いた程度の驚き方しかしないデュガリアに、ヴェルヒドは眉をしかめた。
「神機で近づいて来た時点で、ある程度正体の予測はつきますからね」
驚かなかった理由を明かすと、デュガリアは肩をすくめる。