クリスマス-1
…暖かいぬくもり…あれ…いつもなら朝になると寒いって思うのに…
あぁ、そうだ。昨日はしゅーちゃんの部屋に泊まったんだ。昨日も一昨日も腕枕したまま眠って、しゅーちゃん腕痛くならないかな?でも気持ちいいからもう少しこのまま眠っていたい。
カシャカシャン、ダンっ。
あれ?何の音?
カツンカツン。
ヒールの音?
タッタッタッタッ。
誰かの足音?でもしゅーちゃん隣で寝息を立ててるし、お隣さんとかかな。これだけ音響くんだったら、エッチな声とかホントに気を付けないとまずいよね…
がちゃんっ。
え?
「しゅーへー!」
えぇっ?
「しゅーへー!!起きてっ!!サンタさん来たよっ」
ボスンっ。
「うわっ、亮太!」
え?亮太?
「おねーさん、ダレ?」
えぇぇぇぇっ??こ、子供??????
「おまえ、こんなとこで何してんの?かーちゃんは?」
驚いて飛び起きたしゅーちゃんが、亮太くんなる子供に訊ねる。
「修平、アンタ彼女できたんならできたくらいいいなさいよ」
ドア付近。女性の声。怖くてふりかえることなんてできない。え?何?何が起きてるの?
え??しゅーちゃん???
「うわっ。来るなら来るで来る前に連絡くらいしろって」
え??何??誰??しゅーちゃんの子供?しゅーちゃんの奥さん??
「昨日からさんざんアンタのケータイにかけたけど?」
「マジ?」
「彼女とイチャイチャするのに夢中でケータイなんて気にしてなかったんでしょ?」
「イチャイチャとかいうな。亮太の教育上よろしくない」
「その前にちゃんと彼女さんに説明してあげなさいよ。びっくりしちゃってるじゃない」
「誰のせいだよ、ったく。チカ、これねーちゃん。んで、甥っ子」
慌ててベッドから起き上がろうと思ってでも自分の格好を思い出して慌てふためくことしかできない。
「せっかくのお楽しみのところ、ごめんなさいね。ゆっくり着替えてリビングでお茶でもしましょ?ほら、亮太。こっちおいで」
「はーい」
何が起こったのか理解できないまま、おねーさんとやらと亮太くんとやらはリビングへ消えた。しゅーちゃんは隣で頭を抱えている。
「チカ、おはよう。で、ゴメン」
「お、おはよう…」
「とりあえず着替えるか」
「う、うん…」
昨日来てきた服に着替えて、とりあえず髪は手ぐしでなんとか直し、しゅーちゃんの影に隠れるようにリビングへ行くと、おねーさんとやらがコーヒーを入れてくれていた。
「勝手にやんなよ」
「何よ?普段は自分の分くらい自分で入れろって怒るくせに。ごめんなさいね、朝から驚かせちゃって」
「す、すみません…ご挨拶が遅くなりまして、鈴木知花です。」
キャリアウーマン風のおねーさんとやらに微笑まれて、慌てて自己紹介をする。
「チカちゃん。よろしくね。私修平の姉の陽子。で、息子の亮太。」
「リカちゃん、おはよう。亮太です」
「亮太、リカじゃなくて、チカ」
ムスっとした顔でしゅーちゃんが亮太くんにツッコミを入れる。
「で、クリスマスの朝っぱらから何?」
ここまで機嫌の悪いしゅーちゃん、見たことない。うーん、怒らせると怖いかも…
「アンタ、チカちゃん怯えてるわよ?」
「うるさい。どーせまた義兄さんとケンカでもしたんだろ?」
「ぴんぽーん!」
亮太くんが明るく言い放つ。
「パパねぇ、昨日帰ってくるの遅かったの。で、またママとおばーちゃんケンカしたー。ケンカ、いけないんだよねぇ?」
「亮太は黙ってなさい、ってことでしばらく置いてもらうから」
「はぁぁぁ??んなこと勝手に決めんなよ」
その時、インターフォンが鳴る。しゅーちゃんが深くため息をつくと応対する。
「はぁ。来てますよ。上がってください」
「崇なら追い返して」
「追い返してって、あのなぁ」
なんだかよくわからないけれど、しゅーちゃんのお姉さん夫婦の夫婦喧嘩にどうやら私たちは巻き込まれているらしい。私は何をしていいのやらわからず、途方にくれるばかり。そのうち、陽子さんのダンナさんだという崇さんがやってきた。崇さんも初めて会う私の存在に戸惑っているのがよくわかる。こうしてなぜかクリスマスの朝、しゅーちゃんの家のリビングは大人4人の沈黙と5歳児の亮太くんが醸し出す無邪気さという不思議な雰囲気に包まれていた。