投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

華麗なる逃亡日記
【コメディ その他小説】

華麗なる逃亡日記の最初へ 華麗なる逃亡日記 27 華麗なる逃亡日記 29 華麗なる逃亡日記の最後へ

華麗なる逃亡日記 〜DONA NOBIS PACEM〜-7

 木々の向こうに声を上げた敵の姿を認め、美奈は身構えた。後ろの凛はあまりあてにできない今、実質ひとりで戦っているようなものだ。
 それなら、実際にひとりの方がいい。凛には離れていてもらったほうが無難だろう。
 そう思い凛の方へ振り返った瞬間、
「させるかっ!」
 誰かの叫びとともにいくつかのことが連続して起こった。
 ひとつは、今まで背を向けていた方向で人影が木の陰から半身をさらしたこと。
 それが誰であるか確認する前に、次の動きが来た。
 それは人影の近くの木に何かが当たる音。
 そして人影が再び身を隠すところを見届けて、敵が背後から撃とうとしていたという現状と、それを誰かが阻止したことを把握。
 その誰かを確認するために振り返るのと、乱入者がこちらに駆けてくるのは同時。そして見える白い外套を着た乱入者はよく知る人物で、
「御幸くん!?」
「オマケ付きだ――隠れて!」
 疑問に思うまでもなく分かる。オマケとは御幸の背後にいる敵のことだろう。
 答えの代わりに、状況が飲み込めていない様子の凛の首根っこを掴み、手ごろな木の陰に飛び込む。それからやや遅れて、御幸も近くの木に隠れた。それを横目で確認し、
「ありがと御幸くん。あのままじゃ気付かなかった」
「うーん、お礼はまだ早いかな。事態はむしろ悪化してる気がするよ、俺としては。前後から挟まれたら隠れようがないし」
 御幸は、どうしたものだろうね、とつぶやき笑う。その間にも、敵の射撃は止む事無く続いている。
「……早くあのバカふたりを止めないと、さっきのやつが回り込んで――」
「御幸くん、後ろ!」
 凛の声にそちらを見れば、ちょうど御幸の真後ろに敵の姿が見えた。
 ……これは間に合わないなぁ。
 冷静にそう思う視界の中、振り返ろうとする御幸の頭に向かい何かが結構な速度で飛んで行くのが見えた。その何か、美奈にはゴーグルに見えたそれは、固い打撃音を響かせて御幸の後頭部に見事命中。それにより御幸の頭がわずかに傾いた。
 直後、目標を失った何発かの弾が御幸の顔のそばを通過していくのに次いで、すぐ隣から数発の発射音。美奈の視界の中、その弾は命中とまではいかないが、かなり至近に当たったのが見て取れた。
「ぐうっ……、何だ今の……?」
 敵が再び姿を隠すのと同時に、姿勢をもどした御幸が頭をさすりながら言った。
「あ、ご、ごめんなさいっ。大丈夫?」
「ん? 何で冬月さんが謝るのさ?」
 どうやら御幸は気付いていないらしい。知らぬが仏、あえて何があったかは教えはしないことにした。
 代わりにゴーグルを拾って渡しながら、小声で隣の少女に、
「冬月さんって意外と過激だね。拓巳くんには内緒にしといてあげるけど」
「あぅ……」
 少しからかっただけなのに、顔を真っ赤にしてうつむく凛の様子がおかしくて少し頬が緩んだが、御幸の視線を感じて表情を引き締めた。
「で、穂沢さん、これからどうする?」
「どうするって言われても……」
「俺的おすすめ作戦は“敵陣地は目の前、チラリもあるよフラッグ目指して屍乗り越え三千里。欲しがります勝つために”だけど、どう?」
「……まじめに考えようよ御幸くん」
「仕方ないね。じゃあチラリじゃなくてポロリで――って、冗談だからそんな目で見ないでくれないかなぁ」
 女子ふたりの冷たい視線を受け、あわてて笑顔で取りつくろう御幸。
「はは、今なら毎回のように遊ばれる鈴くんの気持ちが分かる気がするよ。――意外とクセになるかも」
「ん、御幸くん何か言った?」
「秘密。……さて、そろそろ作戦でも立てますか。てか、こっから先はマジトーク情け容赦なしの全開で行くからオッケー? で、間髪入れずに進めちゃうけど、現時点で何か意見のある人は挙手ー」
「はいはーい」
「ん、穂沢さん」
「私たちが応援してるから、御幸くんが馬車馬のごとく働くべきだと思います。てか働きなさいよ」
「…………」
 御幸はかなり嫌そうな顔をしながら言葉を詰めた。そして額に手を当て天を仰ぎ数秒、ゆっくりと視線をこちらに戻して、
「……さて、じゃあ俺が何とか敵を抑えてるから、ふたりで協力してフラッグ取ってきてね。作戦開始は、そうだなぁ……次に向こうの昭和の雰囲気漂うふたりが撃つの止めたら――あ、止めた。はいスタート!」
「え、ちょっ、御幸くん!?」
 奇声を上げながら木の陰から飛び出した御幸をあっけに取られながら見送る。
 そして数秒経ち、御幸の声と知らない男子のやけに楽しそうな声を聞き、ようやく凛とともに動きだし、
「……じゃあ私たちも行こっか」
「……そうですね」
 釈然としない顔で駆け出した。


華麗なる逃亡日記の最初へ 華麗なる逃亡日記 27 華麗なる逃亡日記 29 華麗なる逃亡日記の最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前