クリスマスイブのイブ-1
ラブホを出て、手を繋いだままチカのアパートまで歩く。オレのうちよりチカの家の方が駅から近い。
「朝食でも一緒に食べませんか?」
チカはそう誘ってくれたけれど、
「今チカの部屋に入れてもらったら玄関で速攻押し倒しちゃうから遠慮する」
と答えるとチカは耳まで真っ赤になった。
「あとで迎えに来るよ。昨夜ほとんど眠れなかっただろ?少し寝なさい」
今日は夕方からドライブを兼ねてイルミネーションを見に行くことにした。今チカに襲いかかったらイルミネーションどころではなくなってしまいそうだ。部屋に帰ってネットで調べたらその近くにあるホテルに空きがあり、チカの了承を得て予約をした。ついでにホテルの中のレストランも予約する。突然出来た彼女にクリスマスプレゼントを用意する時間もないから、ちょっとは豪華に過ごせたらと思ったのだ。
待ち合わせの時間に迎えに行くと、普段はストレートな髪をくるんくるんに巻いたチカがいた。
「パーマかけたの?」
「ううん、自分で巻いたの。ヘンかな?」
仕事の時は事務服だし、通勤時の私服のチカとはまたイメージが違う。
「いや、似合ってるしかわいいよ」
「あ、アリガト…しゅーちゃん、私服の時はメガネなの?」
「あぁ、運転するときだけな。何?カッコイイ?」
「ぷ。自分で言う?フツー。でもカッコイイ。実はメガネ男子に弱いんですよ、私」
「ほぉ」
「スーツにメガネは鉄板ですから。しゅーちゃん、仕事中もメガネでお願いします」
「なんでだよ」
だいぶ打ち解けて話ができるようになってきた。車は海を渡り、イルミネーションが丘一面に広がる公園を目指す。
「ナビつけなくても迷わないってすごい…」
「すごいだろ、って冗談。地元なんだ、この辺。まぁもう親もいないから滅多に来ないけど」
「そうだったんだ。こっち側初めて来た」
「なんにもないけどな。もう少し南下すると海とかキレイだよ。夏になったら来るか?」
「うん!」
「じゃぁ来年の夏はビキニのチカに悩殺されようっと」
「なんでビキニ限定なんですかっ」
「あ、来年じゃなくても今日泊まるホテル、敷地内のスポーツクラブにプールあったぞ、確か」
「え?今日ですか?水着持ってきてないですもん」
「レンタルくらいあるんじゃない?」
「って私泳げないですし。いきなり水着とか言われても」
「いいじゃん。水着以上のモン昨日見せてもらってるんだし」
「ちょっ、しゅーちゃんのエッチ!」
「エッチですよ、チカだって充分エロい素質持ってそうだけど?」
「はいはい、私もエロいですっ」
「あ、電マ持ってくるの忘れた」
「いりませんってば。いつまでそのネタ引っ張るんですかっ」
「そうだな、道具がないとチカにイッてもらえないんじゃ情けないしな。ほら、もうすぐ着くぞ。見えてきただろ?」
「あ、ほんとだ。すごーいっ」
園内に入る前から色とりどりの光で彩られた丘が目に飛び込んできて、チカはすっかり機嫌を直した。園内に入り車を停めて散策する。防寒対策をしっかりしているつもりでもやはり寒い。手は自然と繋いでいた。普段仕事をしていても思うのだが、くるくる変わるチカの表情を見ているのは飽きない。イルミネーションに感動して涙目になったり、オレの下ネタ発言に頬を真っ赤にしてふくらませたり。よちよち歩きの子供に対する優しい笑顔も、時々オレに対してくれる微笑みも。オレはイルミネーションよりもチカの横顔ばかり見ていたような気がする。持っていったデジカメでいろいろ撮影もした。チカとイルミネーションの写真も撮ったし、近くにいた家族連れの写真を撮ってあげたお礼に2人で撮ってもらったりもした。ヨーロッパっぽいお土産屋さんを冷やかしたり、ちょっと変わったビールを購入して出口が混雑する前に少し早めに公園を後にした。そこから15分くらい走ったところにあるホテルにチェックインして、ディナー。クリスマス連休の初日なのに空きがあるって正直不安だったが、部屋もそれなりによかったし、食事も満足だった。さっき話してたプールに行こうか、って言ったら残念ながら祝日で営業時間が短く、もう閉館していてチカの水着姿はやっぱり来年までおあずけになった。
部屋に戻って少しまったり。ホテルの周囲には驚くほど何もないが、部屋は海側の高層階で夜景が綺麗だった。ソファに並んで一緒に今日デジカメで撮った画像を見たり、テレビを見たり。