第1章-4
美咲と、沙也香は嬉しかった。
さきほど、二人で人の為に何が出来るかと、話し合っていたときなので
まさか、こんな小さな事でも人の為に成ると思うと嬉しかった。
「いえいえ、おじさま・・でも重そうですね、お買い物ですか?」
「あぁ、散歩がてらに、近くの果物屋で買ったんだが、少し袋からこぼれてね」
「まあ・・」
姉の美咲が言った。
その男性は、見たところだいぶ年配のようだが、
少女には男性の年は想像できないようだ。
見たところ、父よりはずっと上のような気がする。
しかし、洒落たセーターとマフラーをしておりダンディな感じだった。
「ありがとう、少し膝をひねったかもしれない、どこかで休みたいな」
「では、あそこに公園があるから、そこへ行きましょうか」
「そうかい」
「あたしはおじさんの手を引くから、沙也香は袋を持って上げて」
老人のビニールの買い物袋には林檎などがまだ入っていた。
「うん、わかった」
「おじさま、私の手に掴まってね」
「いいのかい、悪いねえ」
「いいえ」
老人が握った少女の手は柔らかく、暖かった。
彼はその手をしっかりと握った。
「あん、いたい」
「あ、ごめんよ」
「うふふ、いいのよ」
「優しいね、お姉ちゃん」
その公園は坂を下った右側にあった。
あまり大きくはない公園だったが、
ベンチが置いてあり、そこに3人は腰を掛けた。
そこには銀杏の木が何本か植えられてあり、
その葉も黄色に色づき、すっかり晩秋の景色になっている。
姉の美咲は、老人の足をさすっていた。
「すっかり秋一色になったねえ、お姉ちゃん達」
「はい、おじさん」
「でも、良いのかい、こんなことをさせちゃって」
「ええ、良いんです、痛いんでしょ、まだ足・・」
「うん、少しね、でもありがとうよ」
明るく元気な美咲は、老人の顔を見ながら嬉しそうに眼を輝かしていた。
「お年寄りは大切にしなきゃ、ねえ沙也香」
「うん」
二人の姉妹はあどけない顔をして老人を見上げた。