上級悪魔と下級契約者―愛と海水浴の危険性に対する考察―-2
「あ〜、色々あったが改めて転入生の紹介だ」
三沢(さっきの影響で鼻には、ティッシュが詰めてある。ちなみに、試合は25分16秒校長ストップで引き分け)が、堂太郎に自己紹介をするように促す。
「道条堂太郎です。よろしく」
堂太郎がそう言うと女子からは歓声、男子の半数からは小さなブーイングが上がる。
さっきは、三沢達教師陣の馬鹿騒ぎの所為で誰も気付かなかったが、堂太郎はなかなかの美少年であった。
放課後、堂太郎の周りでは格好いい転入生に対するクラスメイト(主に女子)の当然の反応と言うべき簡易記者会見が行われていた。
「どうして、転校してきたの?」
「彼女、居るんですか?」
「一緒にカラオケに―」
等々、矢継ぎ早に質問がされる。
しばらくは、その質問に答えていた堂太郎だったが、質問大会が一段落すると、急に席を立ちある生徒の席に向かって歩き出した。
クラスの半数が何事かとそちらに注目する。
堂太郎、目的の席の前につく。
そして、ただ一言
「俺と、付き合ってください!」
…時が止まる。
教室に居る皆が皆無言になる。
そして、時は動き出す。
楓は、混乱していた。
転校生が来ることは、知っていた。
その転校生がどこかおかしいのであろう事も暁の言葉から予想はしていた。
しかし、男に―しかもクラスメイトの目の前で―告白されるのは全くの予想外だった。
「…俺の性別、わかる?」
楓は、なんとかその言葉を絞り出す。
「もちろん、わかりますよ」
「…それで、なにかおかしいと思わない?」
「今どきそんなこと珍しくもないでしょう」
『ホモが今どき珍しくない?』
楓は、なんとかその言葉を飲み込む。
「ちょっと前の中学校を題材にしたドラマでも、某美少女コンテスト出身のアイドルがそんな役やってたし」
…なにかがおかしい。
言い回しが長いとかそういった事柄ではなく、なにかが噛み合っていないようなおかしさがある。
「あの、俺の性別言ってみてもらえる?」
「女性ですよね?あ、もしあなたが女性しか愛せないんだとしても、僕は諦めませんよ。貴女のような美しい女性が性転換をするとしたら俺はなにをしてでも―」
楓は、途中からまったく堂太郎の話を聞かずにこめかみを押さえてうずくまる。
どうやら、この男は俺のことを『ご病気の方』だと思っているらしい。
「そもそも、エロ〜スとは己を高めるという意味であり―」
「あの、ちょっと」
楓は、訳のわからないことを言い続ける堂太郎を止め、ただ一言弱々しく呟いた。
「俺は…男だ」
「…は?」
その言葉を聞いた瞬間、堂太郎の全機能が見事なまで完璧に停止する。
…オトコ?
カノジョガ、オトコ?
頭が働かない。
頭の中が真っ白になる。
嫌な汗が流れ、服が湿っぽくなる。
「お〜い、平気か?」
彼女…
いや、彼が目の前で心配そうに手を振っている。
「…あなたは、本当に、男、なんですか?」
「ああ、なんなら学生証、見る?」
堂太郎が聞くと、彼はそう言い学生証を差し出してくる。
「本当に…男だ」
学生証の性別の部分を見て、初めて完全に楓を男と認める。
…と言うか、自分の心に言い聞かせる。
「だから、君の気持ちには応えられない」
彼は、学生証をポケットにしまいながらそれだけを言う。
「いえ、こちらこそ失礼なことを言ってしまい申し訳ありません」
考えてみたら、自分は男に対して女と言ったりして、かなり失礼なことをしている。彼がもしキレて殴りかかってきたとしも文句の言えないほど、
「気にしないでくれ。もう、なれているから」
しかし、彼は自嘲気味な笑みを浮かべそう言っただけで自分を許してくれたのだった。