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悪魔とオタクと冷静男
【コメディ その他小説】

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オタクと冷静男と思い出話-8

 要するに、『頭は大丈夫か?』と。
「で、なんて言いたかったんですか?」
「……」
「あ、もしかして。すごく悩ませて、地味に仕返しをしているつもりですか?」
「……なかなか斬新な発想だな」
「当たりですか?」
「……誰がそんなしょぼい仕返しするか」
「ですから幸一郎さんが……」
 ため息を一つ。
「するわけないだろうが。だいたい、仕返しなんて考えてもみなかったぞ」
「え? ――まさか、からかわれて嬉しかったんですか? このマゾ野郎って言っていいですか」
「なんだよそれは。変な妄想すんな」
「妄想なんかじゃないですよ! これは今まで見てきた幸一郎さんの言動や性格を事細かに分析して、そこに朝のニュースの占いの結果と動物占い、最近読んだ小説の中の面白そうな表現を加味し、スパイスとして、状況に振り回されないわたくしの心の声を足し、最終的にはその時の気分のみを尊重した結果です!」
 急にそれまでの表情を一変させ、一気にまくしたてる桜子。うるさい。
「で、要するに妄想だろ」
「もう、何を聞いてたんですか!」
 再び怒りだす桜子。感情の起伏が激しいのは羨ましい限りだ。でも、やっぱり迷惑。
「怒鳴らなくても聞こえてたさ。最終的に気分で決めたなら妄想で十分だろ」
「違います! あれは知的好奇心の充足、および創作能力の活用練習です!」
「おい、さっきと言ってることが違うぞ」
「いいんです。万物流転、永久に不変なものなんてこの世に存在しないんですよ。ですから、大事なのは過去に学び、今を経て未来をより良くするための懸け橋を作ることなんです!」
「……少しはいいことを言ったとは思うが、実際の行動で全部が台無しだな」
「そ、それは……」
「とにかく、お前の妄想に付き合い続けるほど暇じゃない」
「ですから、あれは妄想ではなく……!」
「五月蝿い。いつまでも古いネタを引っ張るなよ」
「……幸一郎さん、もう少し優しさとか考えてみませんか?」
「考えてるさ。――僕とはほとんど無縁だ。以上。これでいいんだろ?」
「……」
 明らかに不機嫌そうな表情で黙り込んだ桜子に、さっき言われた言葉を返す。
「沈黙は了解と取るからな」
「……そうですね」
 なんだか初めての勝利者な気分。これからは僕の時代か。
「……話が逸れましたね。元の軌道に戻しましょう」
「ん、ああ。……何の話だったか?」
「えーっと……何でしたっけ?」
「……」
 自分も覚えていなかったが、それはそれ、これはこれ。桜子に非難の視線を送る。
「な、何ですかその目は。今のは軽い冗談であって、ちゃんと覚えてますよ」
「……」
 嘘くさい。この、ありがちな慌て振りも怪しいし。
「その目はまったく信じてませんね!?」
「ああ」
 速答する。
「覚えてるなら言ってみろよ」
「でも、幸一郎さんも忘れてるなら、言っても正誤の判断できないじゃないですか」
「言われれば思い出すさ。忘れた会話なんてそんなもんだ」
「本当ですか?」
 さっきの仕返しとばかりに疑いの目線を投げ掛ける桜子。
「絶対とは言えないけど、たぶん思い出せるだろ」
「……まあいいです。いま幸一郎さんと言い争っても、特に録音すべき発言はなさそうですしね」
「……」
 こいつの頭の中には妄想とその事しかないのだろうか。つばさといい長谷部といい、僕の周りの女は何でこんなに独特の思考回路を持つのだろう。
 まあ、つばさについては慣れたし、そんなに悪くもないかな、と思うような気がしなくもなかったりするような気分で……。
「……幸一郎さん、いま大宅さんのこと考えてましたね?」
「……気のせいじゃないか。そう、気のせいだ。うんうん」
「表情、緩んでましたよ」
「しまった!?」
 慌てて自分の顔を触って確認。
「嘘ですよ。やっぱり考えてたんじゃないですか」
 ……ハメられた。
 悔しいが、感情任せの発言だけはしないよう注意しながら言葉を返す。
「……嘘なんて卑怯だぞ」
「先についたのはそっちですよ?」
「……」
 言葉が見つからず黙った僕を見て、桜子が楽しそうに笑った。


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