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ひとしずくの排卵
【その他 官能小説】

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-1

 食事のあと、春子が自転車で出かけてしまうと、家の中は紳一とつぐみの二人きりになった。
 静まった部屋で気持ちを落ち着かせようとするつぐみだったが、紳一を意識するあまり、胸の高鳴りはますます激しくときめくのだった。

深海さんは起きているかしら──。

 紳一の部屋の戸をそっと開けて、つぐみは中を窺った。まだ眠っているようだ。
 なるべく音をたてないように気を配りながら部屋に入ると、つぐみは紳一の横に正座して、恋しいその寝顔を見つめた。

 喉の奥が締めつけられて、そこから感情がわっと込み上げてくる。
 そばにいるだけで涙が滲むのである。

 そんな思いをこらえながら、紳一のひたいの手拭いを取り替えると、その体温に触れて、ふたたび恋しさが押し寄せてくるのだった。

 やがて紳一の寝息とつぐみの吐息が接近して、事故に見せかけた行為が交わされた。
 つぐみが紳一に口づけたのだ。

 唇の重なりが火種となり、つぐみの体が沸々と粟立っていく。
 自分の意思で自分を支えていることができない。

 つぐみは弱々しく脚をくずして、紳一に添い寝した。
 ここで羽を休めていたかった。

 そんな幸せに浸っていたとき、紳一の目がうっすらと開いて、つぐみの顔を見るなり安堵の笑みを見せた。

「森咲先生、お見舞いに来てくれたんですか?」

「ええと、はい。勝手に上がり込んでしまって、すみません」

 つぐみは戸惑いを露わにしながらも、姿勢を正して座りなおした。

「いい匂いがしますね」

「深海さんのためにお昼ご飯を作ってみたんですけど、召し上がりますか?」

「それは有り難い。けど、いい匂いがするのはそっちじゃなくて、先生のほうです」

「え?」

「その香水の匂い、僕は好きだな」

 つぐみは、いとも簡単に自分を見失った。
 どういうつもりでここへ来たのかもわからなくなっていた。

「じつはさっき、夢を見たんです」と紳一は白々しく言った。

「夢ですか?」

「ええ。夢の中で誰かに口づけられたような気がするんです」

「そうですか……」

 つぐみは目を伏せて言葉を濁した。

「ほんとうのことを言うと、先生がうちにいらしたときからずっと、僕は起きていました」

 聞いた直後、つぐみは自分のしてしまったことを後悔し、繕いきれない過ちを言葉で埋めようとした。

「すみません。そんなつもりで来たわけじゃないんです。どうぞ私を嫌いになってください」

 つぐみは息をつくのも忘れて言い訳をした。

なんて不器用な人なんだ。
それでいて可愛らしい──。

 紳一は目に見えない感情に突き動かされて、うんと上体を起こした。
 そのいきおいでつぐみの手を取ると、力まかせに引き寄せた。

 つぐみは宙を舞う心地を味わったあと、まだ熱の冷めきらない紳一の胸板に受け止められた。

「嫌いになんてなれません」

 まわりくどいことはもう必要ない。紳一はつぐみに口づけた。
 敏感な部分が接触したことで、甘ったるい感触がつぐみの唇をくすぶらせた。

私をどうにでもして欲しい。
都合よく、たった一度きりの女でもいい。
今だけはあなたのために女を果たしたい。
あなたは私の生き甲斐なのだから──。

 そんなつぐみの思いを汲み取ったのか、紳一はつぐみの背中にまで腕をまわし、そのまま布団の上にもてなした。

 重なる唇を少しだけ離してみれば、そこにはもう目を潤ませた恋する女の哀願だけが見えていた。
 何かを言いかけたつぐみの口を、紳一がふたたび口で塞ぐ。

才色を持ったこの人が、僕の前だけで見せた弱い一面。
それだけでいい。
それが彼女を抱く理由になる──。

 つぐみはすべてを紳一に委ねて、脱がされるブラウスやブラジャーの行方を目で追った。
 スカートは畳に敷かれ、貞操をまもっていた下着さえも剥かれるままに、成り行きにまかせるのだった。


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