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ひとしずくの排卵
【その他 官能小説】

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 終業の鐘が空に鳴り響くと、校舎裏の森がざわざわと波立って、野鳥の群れが一斉に飛びたった。
 セーラー服姿の女学生らが、にぎやかな様子で校舎から出てくる。

「先生、さようなら」

「うむ、さようなら。寄り道しないで帰るのだよ」

「わかっています」

 校門のところで生徒らを見送るのは、立派な口髭に、太い眉毛をたくわえた校長先生である。
 雨の日も、晴れの日も、一日たりとも休むことなくそこに立ち、学びの庭をまもり、将来ある学徒らをまもりつづけてきた。

 そこから望む野山の新緑もいよいよ鮮やかに萌えるのだった。

 下校時刻を過ぎても教室に残って勉学にはげむ者もいれば、校庭で運動部活動に汗を流す者もいる。
 図書室に向かう渡り廊下に春子(はるこ)の姿があった。

「ねえ、美智代。このあいだ借りた本はもう読んでしまったの?」

「うん。少しむずかしかったけどね。どんなことが書いてあったのか、教えてあげようか?」

「あん、だめだめ。私だって借りるつもりなんだから、言うのはずるいよ」

 春子に意地悪を言うのは、級友の美智代(みちよ)だ。
 校則で髪の長さを決められているおかげで、春子も美智代もおなじように後ろで結い、遠目からだと双子にも見える。

 二人に限らず、ここの生徒は髪の長さもスカートの丈も皆おなじだった。
 春子たちは丈の長いスカートをひらつかせながら廊下を走っていた。

「廊下は走らないように」

 向こうから歩いてくる先生にそう注意されたものの、「すみません。急いでいたので」と、すれ違いざまに軽く頭を下げるだけにして、ふたたび駆け出す二人。

「困った子たちね、まったく」

 振り返りつつ遠ざかる春子たちの背中に息をつくのは、この女学校で英語を教えている森咲(もりさき)つぐみだ。その呆れ顔にも品の良さがある。

「私も森咲先生みたいに素敵な大人になりたいの」

 廊下を曲がったところで春子が言った。

「春子ならなれるよ。この前だって、よその学校の男子から告白されたんでしょう?」

「言わないで。校長先生に知れたら退学になってしまう。そうしたらお父さんが悲しむもの」

「背伸びしたって大人にはなれないんだから、焦らないの」

「そう言う美智代はどうなの。好きな人はできた?」

「高校生だもの、好きな人ぐらいいるよ。片思いだけどね」

 そうなんだ、という具合に頷く春子だったが、自分にもずっと前から思いを寄せている人がいて、そのことを美智代にもなかなか打ち明けられずにいた。
 それはつまり、好きになってはいけない人を好きになってしまったからだ。

 図書室の書棚のあちこちに目をやって、恋愛小説やら詩集を好んで借りては、そこに自分の思いを重ねる春子だった。



 春子たちが下校する頃には、校門に校長先生の姿はなく、銀杏の木が細長い影を落としているだけだった。

「これから手芸屋さんに付き合ってくれない?見たいものがあるの」

 瓜実顔(うりざねがお)の美智代がそう言った。

「ごめん。今日は早く帰って、夕飯の支度をやらないといけないの。明日でも良ければ付き合うから」

「うん、わかった。また明日ね」

 自転車を押しながら並んで話す二人は、小さく手を振ってそこで別れた。


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