ここは「リュウリ国」の北辺に位置する辺境の村、ツァラン。人口は四百にも満たない、小さな宿場町だ。　　
かつては隊商や旅人で賑わっていたこの村も、盗賊団「赤羽」の出没が相次ぐようになり、今ではすっかり閑散としていた。

その日、村の中央広場に珍しく人々が集まっていた。掲示板に、新しい布告が掲げられているのを皆が囲んで見ている。　　
「こいつは何て書いてあるんだ？」　　
「ええと…『赤羽討伐のため、義勇兵を募る』って書いてあるな」　　
「ついに、俺たちのような農夫や商人にまで助けを求める羽目になっちまったか…」　　
「赤羽は確かに憎いが、俺たちは剣の握り方すら知らねえんだぞ」　　
「それでも、俺は行く！」　　
人混みの中から、一人の若い男が声を上げた。　　
「戦うなんて無理だって分かってる。でも、例えば馬に餌をやったり、物資を運んだりするのだって、戦の役に立つはずだ。俺たちには、俺たちにしかできないことがある！」　　
「…確かにそうだな。赤羽をこのまま放っておくわけにはいかねえし…俺も行く！」