PiPi's World 投稿小説
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No839-05/25 01:12
男/吠恵那
CA33-Gh5L6uxH
結局、一晩中僕たちはカラオケで騒いだ。

みんな喉が枯れた頃に拓海が言ったのは
「ありがとう。」
かすれた声で発せられた一言で、僕らはとりあえずのところ満たされたんだ。



最後の別れを交わした帰り道、亮と二人で帰った。
「まさかあいつが…」
ふいに亮が言い出した。「うん」
「…俺…あいつに負けたくない。負けるつもりもない。」
「…うん」



「おー!朝焼けや。きれいやなあ。」

「おう!」
「よっしゃーー!!藤川亮!いっきま〜す!」

いつもなら「うるさい」なんてツッコミを入れる僕だが、今は亮に勝るとも劣らず、僕の心は朝日に真っ赤に彩られていた。


次は『ありがとう』でお願いします
No838-05/24 03:44
女/灰谷
913SH-RZrh4Gj.


『覚えてろ』

白々と明けて色味を増す空を眺めながら、彼は呟いた。


引き裂かれたキャンバス。
散らばる画材。
汚れた指。



『綺麗……なんだろうね、この絵は
だが、僕には甚だ苦痛だよ

迷いがあるだろう?
僕には見えるんだ
きみの不安と、躊躇いがね』



喉元に、ナイフを突き付けられたようだった。迷いがあるなんてことは、自分がいちばんよくわかっている。
美しい彼女を美しいままに残したいのに、自分が掬いあげるのは己の欲望ばかり。


刻みたいのは愛だけだ。
なのに映るのは劣情だけだ。



苦しげに顔をしかめる彼を、朝焼けだけが見ていた。


『朝焼け』でお願いします
No837-05/24 01:50
男/白いフクロウ
812SH-OtmwnKgP
 思い出のなか
 フランス人形
 覚えてる?
 ねえ、覚えてる?

 街のおもちゃ屋
 あなたは私を
 見つけたね
 そう、見つけたね

 ママにねだって
 買ってもらって
 出会ったの
 そう、出会ったの

 いっしょに遊んだ
 いっしょに過ごした
 覚えてる?
 ねえ、覚えてる?

 あなたが私を
 燃やした後も
 ここにいる
 まだ、ここにいる

 栗色の髪も
 ピンクのドレスも
 燃やされた
 ああ、燃やされた

 忘れられない
 忘れさせない
 覚えてる?
 ねえ、覚えてる?

 覚えてるでしょ?
 覚えてるよね?
 私だよ
 ほら、私だよ

 思い出のなか
 フランス人形
 ここにいる
 ほら、ここにいる

 燃やされたけど
 捨てられたけど
 大好きよ
 ねえ、大好きよ

 忘れられない
 忘れさせない
 大好きよ
 ねえ、大好きよ

 思い出のなか
 フランス人形
 覚えてる?
 ねえ、
 覚えてろ




最後の5行のなかのどれかで繋げます
No836-05/23 20:50
女/ミラージュ
KC3A-Ly1NzEob
年老いた黒猫の睦月が帰って来なかった。いつもなら夕方になると帰って来るのに。

私は必死に捜し回ったが見つからない。
それでも捜した。
見付かると信じて。

一生懸命な私を止めたのは母だった。
猫は自らの終わりが分かると。独りで死ぬのだと。
諭すような母の声が突きさった。
私は無性に悲しくなった。


あれから随分と時間がたった今でも、あの気持ちは忘れていない。

睦月の側に居たかった。
最後まで見届けたかった。

そして今なら分かる。

死ぬ瞬間、誰かが側にいてほしい。
それは猫にだってきっと例外ではない。

誰かがいる温もり。
誰かがいる安心感。
それは無に消える者にとっては大事なもの。

ねぇ、睦月。貴女もこんな風に死んじゃったの…?

孤独の中、私の意識は消えていった。
昔、睦月を撫でた時伝わってきたあの暖かさを微かに思いだしながら。

次は「思い出」で。
No834-05/15 20:06
男/フロムポスト
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「…およしなさいって…」
黒猫がぼくの手をしつこく甘噛みするので、ぼくは言う。
聞こえなかったのか、それとも聞こえないフリなのか。
黒猫はそれでもぼくの手にじゃれつき続ける。
しょうがないのでぼくは向こうが飽きるまで構ってやる事にする。
頭をスリスリと撫でて、あごをクシクシと掻いて、耳をフニフニと弄んで、胴をポンポンと叩いて、尻尾を持ってクリクリと振る。
そこまですると黒猫は満足したのか、黒猫はぼくのひざの上で横になって目を閉じる。
眠る黒猫、夢は見るのだろうか。
「なぁ」
ぼくは黒猫に話しかける。
黒猫は返事の変わりに僅かに耳をピクリとさせる。
「お前、幸せ?」
数秒待ってみたけど、黒猫は何も答えない。
だから、ぼくの問いの答えも分からない。
人間と黒猫、黒猫と人間。
多分、お互いが死ぬ時に、お互いが傍に居る事はないのだろう。
それでも、今は時々押し寄せる孤独の感情を独りで受け止めている時より少しだけ幸せ。
「にゃー」
黒猫は目を開けて、ぼくの顔を見上げて鳴く。
「はいはい」
猫語なんてこれっぽっちも分からないのに、ぼくは返事をしてまた黒猫を撫でる。
黒猫が不吉の象徴だなんて、多分昔の人はあんまり余裕がなかったんだと思う。

「黒猫」で。
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