PiPi's World 投稿小説
[編集|削除|古順]
[戻る|前頁|次頁]

No995-2009/08/15 07:46
男/髭
PC-Ny7KC02k
一秒たらずの内に人は変われるし、変わっていった人達を僕は経験上たくさん知っている。その事で僕が絶望する事はないにしても、やはり希望を抱く訳にはいかないというのが本音だった。
「あなたがそう言うのなら、そうなのでしょうね」
「そう。人は儚くて美しい」
「一秒たらずで消えてしまう、花火の様に?」
星空を携えた闇夜の空が、色とりどりの花を咲かせては散らせて行く。僕はそれを綺麗だと思うし、哀しいとも思う。
「綺麗ね。哀しい程に」
「そうだね。哀しいよ、あれは」
あぁ、人の想いって奴は。
「だけど、やはりと言うか」
「なんだい?」
「私、死にたくないわ」
僕には始めからわかっていた。一瞬の美にこそ、儚さがあるのだと。
「私たちの人生も、一秒たらずで終わってしまえばいいのに」

呟いた彼女の見つめる先には、一瞬の後に来る夏の終わりを知らせる何かが写っていた。僕はそんな姿を見てたまらずに、涙を流した。
冷たい涙だった。


久方ぶりです。次『冷たい涙』で。
No994-2009/08/09 14:57
女/桜井えり
822P-HCGrcAc2
『知らないひと』が『知ってるひと』になるまで一瞬。
『知ってるひと』が『友人』になるまでしばらく。
『友人』が別のものに変わるまでは、たぶん、


「そろそろ付き合わないかなぁ」

「え、ほんき?」

「すごくほんき」

「……ほんきを態度でしめしてみてよ」

「ん〜、いいよ」


そう言って彼は私にちゅうをする。



『友人』が『恋人』に
なるまで、ちゅうの一秒。



^^^^^^^^^
『一秒』で
No993-2009/08/08 10:35
女/さくら
SN39-bI4eURUk
閉じた空。

楽に手が届きそうな低さに笑いが込み上げた。

ただ、ただ自由が欲しかった。

退屈な日常から抜け出したくて家族も友達も全部捨てて来たのに。
にやにや俺を笑って馬鹿にした奴らでさえこんなに空が違うなんて知らなかったろう。

嘘ばかりついた人生だったけど、最期に見るのがこんなに低い汚い空だなんて思わなかった。


多分、俺は何も知らなかったんだろう。

生まれた土地がどれだけの幸福に満ち溢れていたか。


母さんにも悪いことしたな。

何故か無性に泣きたくなった。

「ただいま」と伝えるために帰ろうか。


彼女の言っていた日常がどれだけ幸せなものか分かったから。





落盤で多数が生き埋めになった病院ですが、患者の一人が川辺に立っているのを見たとここ数日目撃情報が耐えません、彼は一体誰なのか、また今回何故このようなことに――。

ニュースも誰も真実を知らない。




next『知らない』
No990-2009/08/07 23:54
女/八厘
911SH-7pKK5jF.

飛び出した私。

私は教室を飛び出した。

教室の机はきれいに並んでいる。

並んだ机には落書き。

落書きは右斜め前に。

数学テスト
古典資料集

その隣に、

私の小さな小さなお願いを書いて。

飛び出した私は、

小さく小さくお願いしながら、

きつくきつく目を閉じた。







『閉じた』で。
No989-2009/07/31 14:15
?/春
HI3F-SVD7kBl8
「離れたくない。そんなの、絶対に嫌よ。」


涙をいっぱいに溜めた瞳で、上目遣い。涙は零さないのがポイント。男はウルウルした瞳に弱いのだ。

そんなあたしの計算なんてお見通しなのか、彼は冷たく言った。

「転勤なんだから、仕方ないだろ。」

彼は『お前も着いて来い』とは言ってくれなかった。あたしも、『着いて行く』とは言わなかった‥言えなかった。プライドばかり高いあたしの、精一杯の強がりだった。


2週間後に訪ねた彼の部屋はもぬけの殻で、彼の温もりが感じられないその空間は只ひたすらに空虚だった。部屋の真ん中に立ち尽くし、あたしは思いっ切り、声を上げて、泣いた。

鼻水と涙でグチャグチャの顔。こんなの絶対見せられない。でも、本当は見せるべきだったのかもしれない。全てを晒していたならば、結末は変わっていたかもしれない。


‥ありのままの醜いあたしを、伝えに行こう。あたしは家を飛び出した。

次は『飛び出した』で。
<戻る|前頁|次頁>