PiPi's World 投稿小説
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No40-2010/09/15 22:56
フロムポスト(HI3G)
証を抱き締めていた。
彼女がぼくに残した唯一の証を。
深夜4時、暗い部屋の隅、彼女の証を抱きしめ、一人。
リッケンバッカー620。
女性が弾くには多少いかついギターだ。
でも何故か小柄な彼女にはこのギターがよく似合っていた。
オーバードライブのかかった620のバッキングと、ぼくのGibsonのリードをバックに、彼女はその綺麗な歌声を惜しみなくライブハウスに響かせていた。
彼女の歌を聴いた、ある人がこう言った。
歌ってるのは綺麗事ばっかりじゃねえか。
「綺麗事じゃない」
そう言いながら620のストラップを肩に下げて、ぼくは立ち上がった。
「綺麗事なんかじゃないんだ!」
そうだ、あの歌は違うんだ。
何故気付かなかったんだろう。
あの歌は、あの『ユートピア願望』が本当に伝えたかった事は。
その先を考えるのをやめて、ぼくは歌った。彼女が作った歌、ユートピア願望を。

幻を見ていた
汚れてない
ぼくだけの幻
いつだって飛び込めるから
No41-2010/09/15 23:17
フロムポスト(HI3G)
お久しぶりです。
次は『いつだって』からでお願いします。
No42-2010/11/26 11:51
逢純(P906i)
いつだって感じてた
縮まらない貴方との距離を

所詮私は身代わりだから
仕方ないって割り切ってた

だってそれで充分だもの
貴方の傍に居られるなら
貴方に愛してもらえるなら

私はちゃんと幸せなの…



next…『幸せ』or『の』
No43-2010/12/14 11:44
髭(PC)
幸せなんてものは、どこにも行き場のないエネルギーの塊の様なもので、それはだれとも共有できないものだとずっと思っていた。その属性を寂しさに変換させるのを待つだけの、困ったものだと思っていた。
僕がそのことを彼女に伝えているとき、彼女は偶然見つけた四葉のクローバーを指でくるくる回して眺めている最中だった。その姿はまるで幸せを見つけた少女のようで、僕はなんだか泣きたくなった。
「ねぇ、僕の話、聞いてる?」と僕が言うと、彼女はやっと顔をあげ、瞼を閉じた。
「そんなこと、どうだっていいじゃない。幸せに思うのなら思えばいい。共有したいと思うなら共有したらいいし、出来ないならそれでかまわない」
それはそうと、彼女が瞼を閉じて話す仕草を、僕は好きだった。
「それよりほら、見て?四葉のクローバー」
そういってクローバーを宙に投げ、風に流れていった緑を見送った。
「どうして投げてしまったの?」
「かまわないから」
「かまわない?」
「だって私、もう幸せだもの」
そういって微笑んだ彼女の顔を、僕は忘れる事は出来ないのだろう。
あぁ、感情ってやつは。
見えなくなってしまったクローバーを探しながら、僕はただ、幸せだけを感じていた。
No44-2011/11/03 21:40
フロムポスト(HI3G)
幸せだけを感じていたから、だから見逃していたのだろうか。
「誰も恨んでない。誰も憎んでない。だから私が死んだって、誰が悲しむ必要も、責任を感じる必要もない」
メモ帳の切れ端、黒いボールペンのインク、無機質な文字で、遺体の傍にはただそれだけ。
火葬場で松本を外の喫煙所に呼び出して、それを見せた。彼女の残した唯一の意志。遺言には短すぎる。
「親族の方には?」
「見せてない」
「だろうな」
見せらんねえよなぁ、と松本は煙を吐きながら呟いた。
「なぁ」
「なに」
「本当に書いてある通りなのかな」
「分からない」
「だよなぁ」
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