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雑談BBS

No829-04/30 13:32
男/白いフクロウ
812SH-OtmwnKgP
 「くれたよね、これ。覚えてる?」
 彼女はそれをぼくに見せた。
 「ああ、まだ持ってたんだ」
 「捨てらんないよ。思い出だもん」
 そう言って曖昧に笑う彼女。その表情に、あのころにはなかった憂いを感じて、ぼくはなぜだか寂しくなった。
 「懐かしいね……」
 彼女の手の中のそれは、オレンジ色の夕日に照らされて懐古を煽る。そのむこうにあのころの風景を見た気がして、胸が熱くなった。
 ふと彼女がぼくの顔を見た。
 「なに泣いてんの?」
 「え?」
 言われてはじめて、自分が涙を流してることに気がつく。
 「わっ、な、なんで」
 「あはは。ヘンなヤツ」
 止めようとしても流れる涙をなんとかしようと焦るうち、いつの間にかぼくはしゃがみこんでいた。
 「ごめっ。ちょ、気にしんで……。すぐにっ、泣き止むからっ」
 彼女はそっとぼくの頭を撫でた。
 そのとき、しゃがんでいるぼくの頭に水滴が落ちる感触がした。
 雨、じゃない。
 「いいよ……泣こうよ……。たまには、ね……」
 ぼくらは長い間、そこから動かなかった。



指定なし
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