PiPi's World 投稿小説
雑談BBS

No749-02/23 17:23
女/ミラージュ
KC3A-bvg6Vjdf
「…ち、畜生っ!」
私はただ呆然とその光景を見ていた。
大破し燃え上がる車、遠くで聞こえるサイレンの音、大地を真っ赤に染め上げる彼から流れる血。
出血の量から漠然と彼はもうすぐ死ぬのだな、と感じた。
「…お前は大丈夫なの…か?」
青くなった唇で弱々しく発する彼の声。
「…はい」
私はいつものように答える。本当は片足の感覚がなかった。
「…ご主人様?」
彼には私の言葉はきっと分からないだろうが、聞いていた。
彼は微笑んで
「いきたいなら……走れ…」
私が答える前に彼は瞳を閉じた。
彼の『いきたい』は『行きたい』か『生きたい』かは分からない。
でも、私はいかなかった。

息絶えた彼の傍に、うずくまる。
私は『生きたい』も『行きたい』もなかった。
たった数千円で売られていたぼろぼろの私を彼は優しくしてくれた。
だから、最後は彼の傍で終わりたかった。そして、私は瞳を閉じた。


有りがちな交通事故だった。
居眠り運転をしていたトラックが普通車に衝突。居眠り運転の運転手は軽傷、衝突されたほうの運転手は死亡。
「俺も飼おうかな…」
事後処理をしていた警官が、衝突された運転手の傍で、片足を失って息絶えた犬を見て呟いた。

次は「呟く」で。
[この辺りへ]