「真結?」
どうやら今日のお姫様はご機嫌が麗しくないようだ。
先ほどから話しかけてもどこか上の空で、いつもならおいしい、を連発してくれる食事も箸が止まりがち。
「真結、調子悪いか?」
もう一度呼びかけると、はっとしたような顔をしたあと、
「そ、そんなことないですよ。」
と無理に笑顔を作る。
知り合って3年以上経ち、付き合い始めて半年経つが、こんな真結の様子は初めてだ。
オレはどうしてやればいいのかわからずに、いつもとは比べ物にならないくらいの回数訪れる長い沈黙と戦っていた。
ご機嫌が麗しくない理由を問いただすべきか、否か。
もしかして、オレは真結を傷つけたり、気に障るようなことをしてしまったのだろうか。
真結を見るとまた箸が止まっている。
今日の献立は真結が以前好きといってくれたものばかりだし、味もおかしくはないはずだ。
もしかして本当に体調が悪いんじゃないだろうか。
突然、真結が箸を置いて、オレの眼の前にあった日本酒の入ったグラスを奪う。
あっという間に透明な液体は真結の小さな口から体内へと流れ込んでいく。
「ま、真結?」
弱くはないとはいえ、日本酒一気飲みとはあまり感心できない。
案の定、空になったグラスをテーブルにたんっ、と音を立てておいたときに軽くせき込み、色白の肌を赤く染めていた。
ふぅ、っと小さく息を吐いてからキッとこちらを見つめる。
「ど、どうした? 大丈夫か?」
「おかわり!」
オレの問いかけには答えず、グラスを再び持つと、こちらへ差し出す。
「はぁ?」
「おかわり、ください!」
あまりの気迫に負けて、少しだけついでやると
「もっと!」
と怒られる。
「あのなぁ、真結。あんまり一気に飲むと…」
諭そうとするオレの言葉をさえぎり、
「飲まないとやってられません!もっとついでください!」
そう啖呵を切ると、ぐいっとグラスをさらに差し出す。
一体何があったというのだろう。
仕方なく先ほどと同程度についでやると、納得したように再びグラスを口元へ運び、眉間にしわをよせつつあっという間にその液体を飲みこんでいく。
「ちょ、ちょいっ、真結?」
再びグラスを空にすると、ふぅっ、とため息をついてこちらを見る。
まっすぐな視線がなぜだか痛々しい。
もう一度深呼吸をしたと思ったら、次に聞こえてきた言葉は想像もしていなかった衝撃的なものだった。