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【調教 官能小説】

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上京-1

幡ヶ谷事務所のレッスンを終えたわたしは代々木公園に向かってウォーキングをすることに決めた。ウォーキングは脚元の爪先から顔の位置と髪の毛の先端までに気を配る神経を磨り減らすプロのモデルの身体を磨くための基本運動だった。

モデルとしての当初の仕事は19歳にしては完成されつつある大人の身体が邪魔をして同世代向け雑誌のオーディションは全て最終面接で落選してしまっていた。

「ポルノスターのような身体ね。いんじゃない水着あたりの仕事を振ってあげたら」

意地悪な編集者は明らかにわたしを挑発し、まだ10代のわたしは「こっちからお断りします」と罠に嵌っていることも分からずに猛然と怒ってその場から帰ってしまうこともしばしばあった。事務所に戻り悪態をつきながらその顛末の報告を終えると「分かったわ。後処理はやっておくわ」と役員に溜息を吐かせる日常を過ごしていた。

そんな性格だったわたしは役員が手配してくれた案件を幾度となく破綻させていたが、それでも事務所は「仕事は選んでいいのよ」とわたしを励ましてわたしでもこなせるブライダル広告や韓国やシンガポールのドレススカートのモデル撮影の仕事を手配してくれていた。

それでも非定期なモデルの仕事だけでは当然やっていけず「社会を知ることもいいことよ」と役員に勧められるままに高級ブランド店でバイトをする今に至っていた。

勾配の激しい初台を抜けて明治神宮に着いたときには両脚が適度な筋肉疲労を伝えていた。

「これでいいのよ。綺麗な身体を磨くには仕方ないのよ」

代々木公園に戻り身体を解すように柔軟体操で筋肉のクールダウンを行っていたとき携帯電話に業務連絡が届いたことを伝えるメッセージの着信音が定期的に鳴っていることにようやく気付いていた。

次世代ECOエネルギー展示会
主催 : 社団法人国際エネルギー推進機構
場所 : お台場 ヴィーナスホール
主催サイドの変更事項を検討した結果、弊社の案件撤退が決定しました。
青山 美咲

そのイベントでわたしはプレゼンターの隣で一流企業をお持て成しするだけで数ヶ月分のバイト代が入る見込だった。

「ちょっと、どういことなのよ」

咄嗟に役員の美咲さんに電話してしまっていた。

「それがね。わたしも困ってるのよ」
「わたしの方が困るんですけど」
「分かってるわ。でもね、主催サイドが北京語も話せる同じような若いモデルに替えて貰いたいって言ってきてたのよ」
「何それ。わたしが何回接待に付き合ってあげたと思ってるの」

主催者との接待は日常に行っていた。あからさまに誘ってくる役員もいれば会社の看板を背負う真面目な重役もいる。それでもお酒が入れば最後に口説いてくるのが当たり前の接待だった。

「ごめんね夏希ちゃん。だから私もこの案件についてオーナーに相談したのよ」
「それで何だって」
「断っていいわって言うのよ」
「えぇ本当なの」

沙也加さんに繋がった事実が嬉しくて逆に気持ちが昂ぶってしまっていた。

「他に何か言ってなかった」

わたしに向けた言葉を聞きたくて問い質してしまっていた。

「ないわ。さらっと言われてお終いよ」

沙也加さんらしいと思ったけど釈然としない気持ちを隠すように「わかった。気持ち切り替えとく」と言って電話を切って本人に聞く切欠を得たわたしは急ぐように山の手線に乗り込んで日暮里駅を目指していた。


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