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没作品 硝子の心 処女作
【若奥さん 官能小説】

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追跡-1

鞄から取り出した携帯電話は未登録の電話番号を不気味に映し一向に鳴り止む気配が感じられなかった。携帯電話を持ったままのわたしは通話ボタンに触れることができず不気味な着信音だけが鳴り響いていた。

「撮られてたみたいよ」

佳奈の言葉が頭をよぎり今この時ですら撮られてるような緊張感に足元が驚くほど震えていた。許しを乞うよう震える手付きで通話ボタンに触れようとした途端、携帯電話をわたしの手元から床に落としてしまっていた。

綺麗なリビングのフロアーでバイブしながら動く携帯電話は別の生き物のように不気味な音を響かせ床を這うように着信を知らせる液晶の光を照らしながら蠢いていた。

悲鳴をあげたわたしは自分の部屋に向けて走ろうとしたが震える足が絡まり無様にフロアーにうつ伏せる格好で転がってしまっていた。

真後ろで響く携帯電話の音に慄きソファーの前に立て掛けた鏡は嘲笑うかのように無様なわたしを映しだしていた。

「嫌よ」

鏡に映るわたしに向かって「怖いわよ、許してよ」と許しを乞うように呟いてしまっていた。

鳴り止まない携帯電話は間違いなくわたしの姿を観ていることを伝えているようだった。
それでも鳴り止まない携帯電話にわたしは撮られている事実を認め床を蠢めく携帯電話に顔を戻して通話ボタンを震える指先でようやく触れていた。

「どなたかしら」
「佳奈よ。やっとでたわ」

本当に腰が抜けたようにぐったりとソファーに座り直して「一体何なのよ」と捲し立てるように問い質していた。

「撮られてるのよ」
「嘘よ。わたしを弄ばないでよ」
「撮られてるの」
「どこから撮れるのかしら。ふざけないでよ」

リビングを見回しながらそれらしいカメラが無いことを確認して「いい加減にしてよ」と怒りに任せて悪態をついていた。

暫く何も言わなかった佳奈が呟くように「真上なのよ」と教えてくれた。

咄嗟に見上げた天井には薄暗く輝くシャンデリアがあり、それを補うための照明が部屋の隅からシャンデリアに向かって強い光を照らしていた。

「どこにも無いわよ」

佳奈は何も言わなかった。天井を見上げたまま綺麗に光るシャンデリアを見上げ何も無いわと思ったその時だった。
豪華なシャンデリア造りの影から胃カメラのような細長い生き物のようなカメラがわたしに向かってしっかりと小さなレンズを合わせるように姿を表してきた。

声の限りの悲鳴を挙げていた。
「一体、何なんなのよ」

レンズに向かって「ふざけないでよ」と叫び取り乱すようにダイニングの椅子を持ち込み爪先立で引き千切ろうと細長く硬いレンズを引っ張りだそうとしていた。シャンデリアの光は大きく揺れ夥しい埃がわたしに降りかかってきていた。
怒りの頂点に達したわたしは簡単には壊れないレンズを破壊するためミートハンマーとキッチン鋏を手に取り時間を掛けてレンズを千切り落とし足元に落ちたレンズに向けて狂ったようにハンマーを振り下ろしていた。

ソファーに置きっぱなしだった携帯電話が再び鳴り響きようやくわたしは現実に戻ったところだった。

「佳奈よ」
「一体、何のつもり」

破壊した装置を睨みながらキツい口調で佳奈を責めていた。

「まだあるわ。寝室のランタンの裏と長廊下の自動照明にも同じものがあるわ」

怒りに捉われたわたしはハンマーと鋏を手に部屋にあった同じ装置を破壊し玄関に椅子を放り出すように引き摺って同じように破壊を繰り返していた所だった。

リビングから再び携帯電話が鳴り響いていた。

「いい加減にしなさいよ」

怒りの叫びをあげながら佳奈からの着信を知らせる通話ボタンを押して捲し立てるように「あなたのやってることは絶対に許さない」と言い切って通話を切ろうとした時だった。

「佳奈よ。わたしにできることはあと一つしかないわ」
「何言ってんの」
「わたしにできることよ」
「ふざけないで。何が楽しいわけ」
「あと一つ」

佳奈は最後のひとつを告げて「また連絡するわ」と言い残しわたしが言い返す隙を与えずに一方的に通話を切って最後の事実をわたしに突き付けていた。

「あなたが観ている大きな鏡。あの鏡の裏にはびっしりレンズが入ってるわ。早く捨てるのよ」

佳奈は残酷にそう告げて通話を終えていた。

「鏡」

わたしはソファーの前に立て掛けた鏡を唖然と見つめ全てが終わった現実に完全に腰を抜かしフロアーに座り込むことしかできなかった。


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