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幼馴染
【同性愛♀ 官能小説】

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-1

 カケルちゃん! 陽気な声がした。
 昔から屈託なく笑うやつで、女の子みたいに儚く可愛くって、人見知りするクセに誰にでも優しい。
 だから、みんなソイツを守ってあげたくなる。
 いつものような明るい笑顔が、少し雲って、実は父子家庭なんだ……。なんて、告げた日にゃ、誰しもが守ってあげたい。じゃなくて、守らなくては。と、使命にも帯びた感覚を覚えるだろう。少なくとも、俺はそう思ってる。
 そんな可哀想な彼とは小学生専門の柔道教室で出会った。
 なよなよとした弱いソイツに、当たり前のように翔は守ってやらないと、と、感じた。同学年だったから、もあるかもしれない。
 人見知りするソイツも、翔にだけは馴染めた。
 小学六年の時に隣に引っ越されてからは、ソイツを嫌いになる一方だった。
 父さんも、母さんも、会釈するくらいだったご近所さもも、口を揃えて翔がしっかり守ってあげないとね。と、笑った。うるせぇな。
 何となく続けてた柔道は、その時に辞めた。
 カケルちゃん! ソイツも笑う。薄目を開けると、灰色が目に飛び込んできた。
「はぁ?!」
 どこだここ? 灰色を避けようと体を捻った途端に頭がずきずき痛み始めた。
 ギッと、左腕も痛くなった。締め付けられるような、キリキリとした痛み。
「いたぁ……。うおぉ……」
 痛む頭を撫でようと、手をあげ、やっと翔は気づいた。
 手が上がんない?
「えっ、ちょっ……縛られてる?!」
「カケルちゃん平気?」
「マジで? え、よ、はぁ……? 陽?」
「うん。カケルちゃん怪我とかない?」
 さっきまで、夢に出ていた相手が目に入る。
 不安そうに縮こまっているので、駆け寄ってやろうと身を乗り出したが、椅子にくくりつけられている体はピタリと動かない。
 陽は相変わらず、黒目がちな大きな目をキョトキョトさせていて、モルモットとかそういう可愛い小動物を連想させるような動きをしていた。
「頭が……あー、や、平気だよ……。まぁ、うん。つか、なにこれ、どうしたん?」
 ホントに? 何て言って顔を近づけられると、見慣れていたとしても綺麗だなぁって、見惚れてしまう。
 縛られて目の前には幼馴染み。何て言う、あり得ない状況でも、あり得ない状況だからこそか、普段通りのままでいれた。
「う……ぐ、」
「は? うっへっ? ぎゃっ!」
 トンッと、足になにかがぶつかった。
 あ、靴履いてなかったんだ。なんて、やけに冷静に――ぼんやり思いながら、体はすごくビックリしていたみたいで、口からはギャーギャーと悲鳴が漏れた。
 足をあげようと、ひょいと力をいれて思い出した。足までご丁寧に縛られているのだ。
「カケルちゃんっ」
 この世の終わりか! と言うくらいの悲痛な叫びが耳に入る。なんつー声出してんだよ、陽。
 その陽の声につられてか、機嫌がいいとよく母が口ずさむ、火曜サスペンスの音楽がバァァァっと、翔の頭の中を駆け巡る。
「常山ぁぁぁ!」
 俺の下から、大声出して起き上がったのは灰色ジャージの男だった。
 あぁ、目を開けた途端に視界いっぱいに入り込んだのは、コイツなのか。
「い……!! は、はいぃ!」 
 自分の名を呼ぶ勢いに押され、翔は元気に返事をした。
 俺、コイツに殺されるんじゃないかな。
 整った。とは言いがたい顔――睨んでいるから余計にそう思えてしまうのだ。――のジャージ野郎は、今にもお前を殺してやる。と言いたげだ。
 意識せずに、両手が痙攣した。
「あ……、やっと目を覚ましたか」
「え、うん……はい」
「よし、なら、続きを始めるぜぇ」
 続き? そう言えば、コイツは、俺を縛って陽をベッドに乗せてなにがしたいんだ?
「う……ん、ああぁ!」
 そうだ! 思い出した!
 叫ぶと、少しずつ収まっていた頭の痛みが、またぶり返した。
「いっ、ぁた……。あ、お前、俺が自転車乗ってたら……!」
「そ、殴った」
「……あ、おい、犯罪だぞっ! おいっ! テメェ……! おれ、あ、俺がオメェになにした? や、何もしてねぇだろうが!」 
 道理で頭が痛むわけだ。
 ちょっと、すみません。なんて、白々しく声かけてきやがって……!
 冷静にヘラヘラとするやつを目の当たりにし、カッと怒りが体を包んだ。
 ただ、いくら叫んでもジャージは振り向かない。
「あっ、やぁ……!」
 陽のものとは思えない甘美な声が、部屋に響いた。
 それには、翔も思わず息を飲んだ。なんだか、声を出しちゃ、いけないような気がした。
 艶やかな陽の声を聞いて、翔はやっと状態が飲み込めた。
 陽は、可愛らしい容姿で男女問わずモテる。
 中には、コアなファンもいて、たまに暴走して職員室行きになるやつもいるくらいなのだ。
 ジャージも、そいつらと同じ様に陽のコトが好きなのだ。たぶん。
 けど、陽にはその気がない。優柔不断な陽はのらりくらりとその場をやり過ごし、ジャージはしっかりしない陽の態度に、恋心は諦めきれず、陽をこらしめようとした。
 かわいさ余って、憎さなんたら……って、やつ?
 まて、それじゃ、俺が一番の被害者じゃないか! 第一、何で俺がここに連れてかれたんだ! と言うか、ここはどこなんだ?
 置いてけぼりをくらった翔は、手から全身へと移った震えと戦うことで、この場をやり過ごせるように専念した。
 毎度、こんな恐怖体験してんのかよ……。
 だらしがない。弱虫。なんて、馬鹿にしていた陽を、少し尊敬した。
「とっぅ……やぁぁぁ」
「はっ、がぁっ……!」
 先ほどの色っぽいから一転、切れのある声。
 続いて、アヒルのガァガァ声。
 陽が押し倒された。と、思った次の時にはジャージ男の首に陽の生白く細っこい足が纏わり付いていた。
 あ、っと思う暇もなく、ジャージの首は絞められた。
「さ、三角絞め……」
「カケルちゃん、正解!」

 


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