エピローグ-1
撮影を終えた翌日、ゆう子と和久役を演じた俳優は喫茶店で向かい合っていた。
俳優の名前はやはり和久、親密な感じを出すために当初シナリオに書かれていた名前を、俳優の芸名であり本名でもある和久に差し替えたのだ。
「もし・・・あなたが名残が惜しいと思ってくれるなら・・・どこかのホテルで・・・」
「いや・・・」
和久はゆう子の言葉を遮った。
「名残は惜しいよ、本当に・・・でも、カメラのないところでもう一度肌を重ねたら本当に忘れられなくなっちゃうよ・・・」
「本当に?」
「ああ、本当に・・・でも・・・」
「わかってる・・・」
「年上だとかAV女優だと言うことじゃないんだ・・・君はまだ僕が独り占めしていい女性じゃないって知っているから・・・それをわかってるから・・・」
「・・・ごめんなさい・・・」
「謝ることなんて何もない・・・君がいつかファンの前を去る時・・・その時まで・・・」
「いつになるかわからないわ」
「本当に・・・僕もそう思うよ、でもいつまでも僕は・・・」
「待つなんて言わないで・・・待っててもらうのは心苦しいわ、私は私がやりたい事を続けてるだけだから・・・」
「ああ、わかってる・・・見守るよ、応援してる、その時までに僕もいっぱしの俳優になってみせるから」
「ありがとう・・・私も応援してる」
「うん・・・さよならは言わないよ・・・いずれまた・・・」
「ええ、そうね・・・いずれまた・・・」
作品の中でもそうであったように、和久とゆう子は握手をして別れた。
自分の部屋に戻ったゆう子。
それまで抑えて来たが、独りになると淋しさに胸が押しつぶされそうになる。
AV女優になって15年、その間恋とは縁を切って生きて来た・・・今の気持ちが恋なのかどうかもわからなくなってしまったくらいに・・・。
(でも、これはまちがいなく自分で選んだ道・・・何かを採れば何かを棄てなきゃいけない・・・私には大勢のファンがついていてくれるじゃない・・・)
そう自分に言い聞かせても涙はとどめなくこぼれ、ゆう子にはそれを止めることが出来なかった。
(今日はいいよね?・・・今日だけは・・・)
そう自分に問いかけると、AV女優としてのゆう子もそれを許してくれた。
DKのフローリングにぺたりと座り込んだゆう子は、親にこっぴどく叱られた時の幼子のように天井に顔を向けて大声を上げて泣いた・・・。
今日だけは思い切り・・・明日に涙を残さないために・・・。