プロローグ〜AV撮影現場-1
そのAV作品は撮影現場そのものの描写から始まる。
撮影の様子そのものが更に外側から撮影され、作品に組み込まれているのだ。
全裸で天井から吊られているゆう子の膝に縄がかけられ、ぐいっと引き上げられた。
Ｍ字に開脚させられて宙に浮いたゆう子に、ペニスを凶暴なまでにそそり立たせた男優が歩み寄る。
「あうっ・・・」
既にかなりの時間逝きっぱなしにされていたのだろう、ゆう子の表情には疲労の色が濃く浮かび、男優が腰を抱えた時も虚ろな表情のままだったのだが、男優が渾身の力を込めて突き上げるとゆう子は天を仰いで喘ぎ声ともうめき声ともつかない声を漏らす。
「うぐっ・・・うぐっ・・・うぐっ・・・」
5分あまり、ゆう子を突き上げ続けた男優が仕上げにかかる。
腰にゆう子を載せるように反り身になって思い切り突き上げると、ゆう子の体は吊り縄を緩めるように小さく跳ね上がる。
縄に搾り出されている乳房が大きく揺れ、尻の脂肪も波打って突き上げの衝撃を物語っているのだが、男優はその突きの威力を保ったままテンポを上げて行く。
「ぐううううううううううう・・・かはっ・・・・」
歯を食いしばるようにして、小刻みに顔を振っていたゆう子だったが、大きく息を吐いてがっくりとうなだれてしまう。
男優はそれに構わず、もうしばらくゆう子を突き続け、膣の奥深くに精を注ぎ込むとゆう子から離れた。
ハンディカメラが吊られたままのゆう子の足元に滑り込み、注ぎ込まれた白濁液を滴らす性器を捉えると、ゆう子の体を舐めるように這い上がって行き、最後に表情を捉える。
口元にはよだれ、鼻からは鼻水、半ば閉じられた目にも涙がにじんでいる。
酷い表情と言えばそれまでだが、その表情はたった今行われていた責めの激しさを物語るもの、そしてゆう子がそれを一身に受け止め続けた証でもある。
セックスシーンで眉間に深い皺を寄せ、目を潤ませて悶えるゆう子の表情は、デビューした15年前から一貫してファンの心を捕らえて来た。
そして、妥協のない、容赦のない責めを受け止めて憔悴しきったこの表情もまた、ファンの心を鷲づかみにして来た。
常に全身全霊をかけてセックスシーンに、陵辱シーンに臨み続けて来たゆう子の勲章でもある・・・。
しかし、まだこのラストシーンにはもうひとつのクライマックスが用意されている。
それ以上撮影が続けられなくなるので最後の最後まで温存されていたシーンだ。
ゆう子もそれに同意の上で撮影に臨んでいた。
ゆう子の膝にかけられた吊り縄が更に引き上げられて行き、ゆう子の体は水平に、そしてそれを通り越して斜めにされて行く。
うなだれていた頭は仰け反って垂れ、長い黒髪がだらりと揺れる。
ハンディカメラが再びゆう子の表情を捉える、薄目を開けているのだが、その中の瞳はせわしなく左右に揺れている。
膣と直腸に電極棒が挿し込まれるが、ゆう子に反応はない。
乳首が大きなワニ口クリップで歪められると、体はビクッと反応し、目も一瞬見開かれるがすぐにまた元のように半目に・・・。
大げさなスイッチが大写しになり、電流調整器のボリュームがマックスにセットされる。
監督は険しい目でゆう子を見つめ、カメラ、音声、照明はその瞬間を逃すまいと真剣な表情で固唾をのむ、白衣を纏った看護士は腰を浮かせ、手の空いているスタッフは酸素ボンベと毛布を抱えて身構えた。
監督がスタートを掛け、スイッチが入れられた。
「きゃあああああああああああああああああああああああああああああああ」
ゆう子の眉間に深いしわが刻まれ、最後の力を振り絞ったような悲鳴を上げて唯一自由になっている膝から下を激しくバタつかせたかと思うと、ふっと表情が緩み、瞳が裏返る。
パンしていたカメラは吊るされたゆう子の体が激しく痙攣し、急に動かなくなったのをしばらくの間映し出し、ハンディカメラは瞳が見当たらなくなったゆう子の目を捉えた後、ゆっくりとゆう子の周りを一回りした。
「カット！」
ようやく監督の声がかかった。
常に限界に挑み続けるゆう子のＳＭものの撮影では、スタッフと男優達はカットの声と共に救出班に早変わりする。
男優達がゆう子の体を支えて吊り縄を緩めると、縄師は大急ぎで胸縄を解き始め、少々縄の心得がある監督も膝の縄を解きにかかる、その間も看護士は脈と呼吸を確かめている。
数分後、鬼気迫るシーンを撮るために気を失うまで体を張った女優は大勢の手によって大事にソファに運ばれ、横たえられた。
酸素ボンベを当てられ、毛布にくるまれたゆう子が意識を取り戻し小さく頷くと、ようやく現場の緊張が緩んだ・・・。