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不貞の代償
【寝とり/寝取られ 官能小説】

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ダビング-1

 外に出て肩をグルグル動かしてから伸びをした。「今日も終わった」と空に向かってつぶやき眉間に力を入れ、人影をひととおり確認してから「よし」と言って駅に向かって歩き出した。あと一時間足らずで日付が変わるが、まだ通りには多くの人が歩いている。ほとんどが連なるビル群からはき出されたサラリーマンだ。
「皆遅くまで仕事してるなぁ。金にならない仕事なんだろうけど、俺みたいに。不景気なのか好景気なのかあやふやだし。まぁ明日は休みだから、どうでもいいか」と独りごち、笑った顔を隣に向けると、チョップカットにした髪をツンツンに立ち上げた、入社して間もないと思われる若い男のおびえた目があった。石橋は姿勢を正して前方に向き直る。が、「ゲッ! いた!」と、いきなり大きな声をあげた。びくっとしたフレッシュマンは片足を上げ腕をクロスして身を守るような体勢を作った。自分の姿にはっと驚き、顔がみるみる赤くなり、危険を察知した小動物のように走り去ったのであった。
 それはさておき、一つ先のビルの角に沼田が立っているのが見えた。駅へ向かう人並みと逆方向に、こちらに体を向けているので目立つ。ここからだと顔の表情までは分からないが、にたりと笑っていることは間違いない。
 外へ出るにはウエストゲートと呼んでいる表玄関のほかに三つある。一緒になるのが嫌なので先に帰った沼田とは時間をあけて、しかも裏ゲートから出てきたのだ。いずれにしても駅に向かうには沼田のいる地点を通らなければならないのだが。回れ右をするわけにもいかず、知らんぷりを決め込んだ。
 指で眉間を揉みながら首を振って疲れた風を装い、沼田など全く目に入らないとばかりに、大股で横を通り過ぎた。後ろからパタパタと追いかけて来る足音が聞こえたので、ため息をはき目をグルッと回した。分かっていてもポンと肩を叩かれると、うなじ辺りから頭の天辺を通り、額から目のふちにまでぞわっと悪寒が走った。
「やあ石橋君、偶然だねぇ。わたしも帰りはこっちなんだ」
 当たり前だろう、とは口に出さず、「あ、どうもお疲れさまです」と、素っ気なく言った。
「いつも遅くまでご苦労さんだね、石橋君」
「いえ」
『君』の部分が妙に鼻にかかっていたので身の毛がよだった。
「石橋君は今日は食べなかったねぇ」
「は?」
「夜食だよ、夜食。というより夕食だね」
「あ、ええ、仕事のきりが悪かったもので」
 自分のことを観察している沼田にうす気味悪さを感じた。
「そうだったんだ。だったらお腹、空いちゃってるね」
「ええ、そう……いや、そんなこと……」
 意表を突かれた質問と嘘をつけない性格と実際腹ぺこだったせいで、しどろもどろになった。
「わたしはね、食べたんだけど、今はお腹は空いているんだ」
 突き出た腹を叩いて笑った。
「忙しいものね。いつも、石橋君は、いろいろと。本当によくやっているから。優秀だし、仕事も早いし、正確だし」
 いかなる状況でもおだてに弱い石橋はフルフルと首を振った。
「いつもどこで食べるんだい?」
「朝ですか? 昼ですか? それとも夜?」
 基本的に実直な石橋はそう聞き返した。呆気にとられた沼田は「ああ、そうね、じゃあ朝は」と聞くと、「うちです」と即座に答え、「近所にそれは美味しいパン屋さんがありますので」と続ける。
「へー、朝はパン派なんだ。わたしもだよ、簡単だし。いっしょだね」
「ええ、カレーパンの辛口、それとアップルパイ、トマトの入ったサンドイッチなどを朝早く起きて一番で買いに行きます。焼きたて作りたてが美味しいのです。買って帰ってから、とろとろにしたスクランブルエッグとレモネードをこしらえます。レモネードはレモンをたっぷり搾って自分で作るんです。美味しくするにはハチミツとシロップの分量が難しいのですが。ああ、炭酸は入れませんよ、あれはだめ。それから生ハムとたっぷりのレタスと、季節であればメロン。あとセロリにカマンベールを少々、ヨーグルトと塩分無添加のトマトジュース。あ、ヨーグルトはタネから作ります。昨夜作ったビーフシチューの残りも温めて。でもポテトサラダは作りすぎちゃうんです。バケットを買ってきてサンドイッチにすることもあります。あ、そうだ、ベーグルもお勧めです。イチジクパンも捨てがたいですね。牛乳はたまにしか飲まないですね。ええ、これ以上背は伸びなくてもいいからです、ははは……。終わったらトイレに行って、すっきりしてからミルからブルマン、正式名称ブルーマウンテン……」


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