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〈亡者達の誘う地〜刑事・銭森四姉妹〉
【鬼畜 官能小説】

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〈憔悴〉-1

夏の終わりを告げるツクツクボウシの鳴き声が、石垣で囲まれた城のような豪邸を包み込んでいた。
その豪邸の一階にある広い座敷の隅に、白髪の70代くらいの老人が、開けた和服を着て座り込んでいた。
背中を丸め、生気の薄れた皺だらけの顔で俯く姿は、悲壮感に満ちている。


「……美津紀……麻里子……る…瑠璃子……」


一番溺愛していた美津紀が失踪してから、一つの季節が過ぎ去ろうとしている。頼りにしていた麻里子が音信不通となり、そして瑠璃子までも……相次いで孫娘達が消えていく現実に、警視総監たる祖父は憔悴していた。


「……美津紀……何処におるんじゃ…?」


深く皺が刻まれた目尻から、一筋の涙が零れた。
何故、あの時すぐに捜査本部を立ち上げ、全力で救おうとしなかったのか、祖父は悔いていた。
いや、あの時はまだ、自分の孫娘達が凶悪な犯罪者の標的にされていると、知らなかったのだ。
まさか麻里子まで消え、瑠璃子までも消息を絶つとは夢にも思わなかったのだ。


祖父も、若い頃は警官として正義感に燃え、犯罪に果敢に立ち向かっていた。
全ては善良なる市民を守る為に……。
数々の事件を解決し、上司の信頼を得て昇級していき、そして今の地位を得た。
その事件の中には、善良なる市民の“真の姿”を目の当たりにする時もあった……。

それは加害者の家族への罵詈雑言と、被害者とその家族への誹謗中傷……わざわざ電話番号を調べての昼夜を問わぬ嫌がらせや、手紙による心ない差別的な言葉の暴力……これに販売促進しか頭に無い無神経なマスメディアが絡んでしまったら、被害者や家族は、犯罪より酷い心の傷を受ける事となる……。

過去、何度となく見て、聞いてきた市民の“正義感”を、警視総監は恐れた。

爺の七光りで孫娘達は刑事となった。
それは公に尽くす公務員としてはあるまじき行為で、しかも美貌の女刑事とくれば、マスコミは放っておくまい。
職務中に失踪し、残る姉妹も次々と消えていく……真実を捜そうともせず、読者や視聴者の“受け”だけを狙い、バイアスの掛かった面白可笑しい報道をされ、そして増長した“善良なる市民”の陰湿な攻撃に晒されるのは、火を見るより明らかだ。
だからこそ祖父である警視総監は事件を秘匿し、麻里子や瑠璃子や春奈にだけ美津紀の救出を命じたのだ。
そして、その結果が今の状況……。


警視総監は苦悩していた。

被害届さえ出さなければ、それは事件として扱われる事はなく、警察は動かない。
全てを闇に葬り去る特殊処理班へ要請する事まで考えたが、それも何処で綻びが出てしまうか分からない。自分の可愛い孫娘だからこそ、僅かな可能性に怯えてしまい、警視総監は動く事に躊躇ってしまっていた。


「……そうじゃ……アイツなら……」


警視総監は立ち上がり、電話を掛けた……それは毛嫌いしている本家の爺……つまり前・警視総監へ……。


{おう、久しぶりじゃないか……}


受話器の向こうのしわがれ声は、特段な感情の起伏すらみられない……暫しの沈黙の後、現・警視総監は口を開いた……。


「……お前の……孫娘の……夏帆ちゃんや真希ちゃん……海外で元気にしとるかね?」


自分の今の孫娘達の非常事態を告げられず、他愛がない言葉を話す……その社交辞令的な言葉にも、受話器の向こうは沈黙したままだ……。



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