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【サスペンス 推理小説】

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嫌がらせ-1

 オフ会から3日ほど過ぎた日の午前中、ヨネコさんがまたいつものようにやってきた。勝手に上がりこんでくるところまではいつも通りだったけど、テーブルの上でパソコンを開いたままため息ばかりついている。なんだかちょっと元気がないように見えた。

「どうしたんですか? ため息ばっかりついて」

「うん……これ、見てくれる? なんだか前よりもひどいのよ……」

 表示された画面は新たにヨネコさんが投稿したらしい作品のトップページで、50件以上のコメントがついていた。内容は、『消えろ、死ね』『へたくそ、書くな』『いいかげんにしろ、おまえみたいなのが投稿していたらサイトの価値が下がる』などなど。オフ会の直後に投稿した後、急激に嫌がらせがひどくなったらしい。

「それもね、他の人のところにはここまでひどい数のコメントは入らなくて、今回はワタシのところだけ集中的に入ってるみたいなのよ。気持ち悪くて……」

「そうですか。じゃあ、しばらく投稿せずに画面見なきゃいいんじゃないですか?」

「いやよ! せっかく見つけた趣味なのに。それにね、2、3日でもログインしなかったらみんなの話題についていけなくなっちゃうし。あー、もう、気分悪いなあ!」

 げんこつでゴンゴン床を殴るヨネコさんの顔は真っ赤で、どこかの地方に伝わる『なまはげ』のお面にそっくりだった。いつまでもぶつぶつとうるさいので、京都の親戚が送ってきてくれた生八つ橋を開封して勧めてみた。ヨネコさんはパッと表情を輝かせて、2つか3ついっぺんに頬張って幸せそうに口を動かした。

「あまーい、美味しーい。モモちゃんちのお菓子はいつも美味しいから大好き。お茶も飲みたいなー」

「あ、はいはい」

 もう嫌がらせのことなど頭に無くなったように、お菓子はやっぱり和菓子がいいよね、と食べ物の話に夢中になっている。うらやましいほど単純な脳みそだなあ、と思いながら、ヨネコさんの歯並びの悪すぎる口元を眺めた。


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